クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第141回 ヤナーチェク オペラ『利口な女狐の物語』
イラスト/なめきみほ
ラトルが世に出るきっかけとなった名曲とは
今日1月19日は、英国リヴァプール出身の指揮者サイモン・ラトル(1955~)の誕生日です。
名指揮者クラウディオ・アバドの後を継いでベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任(2002~18)するなど、指揮者として最高の栄誉を勝ち取ってきたラトル。その飛躍のきっかけとなったのが、1977年にレオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)のオペラ『利口な女狐の物語』を指揮したクライドボーン音楽祭への最年少デビューです。
その後、英国のバーミンガム市交響楽団の首席指揮者に就任したラトルは、飛ぶ鳥を落とす勢いで頂点へと駆け上がります。数多いオペラの中から『利口な女狐の物語』を選んだラトルの思いやいかに。往年の音楽評論家・吉田秀和氏の『私の好きな曲』の中にもこの曲が選ばれていたことを思い出します。
多くの動物が登場するこの物語には、生命の不思議や自然への感動、あるいは畏怖の念が表現されています。ヤナーチェクは、自らの人生観が込められた第3幕の「森番のエピローグ」を自分の葬儀で演奏するように希望。実際に演奏が行われたことも心に残る逸話です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。