クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第145回 ロッシーニ オペラ『セビリアの理髪師』
イラスト/なめきみほ
ロッシーニの天才ぶりを描いたスタンダールのすばらしさ
今日1月23日は、フランスの小説家で評論家スタンダール(1783~1842)の誕生日です。
『赤と黒』などの長編小説で知られるスタンダールとクラシックの接点は、音楽に関するさまざまな評伝にあります。中でも「ナポレオンは死んだが、また別の男が現れた。モスクワでもナポリでも、ロンドンでもウィーンでも、連日話題となっている。(中略)しかもまだ32歳にもならない」。という有名な書き出しで始まる『ロッシーニ伝』は、第一級の資料です。
そのロッシーニ(1792~1868)の代表作が、オペラ『セビリアの理髪師』です。初演は1816年。ロッシーニ24歳の作品です。
ボーマルシェの戯曲に基づく物語は、同じセビリアを舞台にしたモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』の後日談にあたるドタバタ喜劇。ロッシーニは、わずか13日間でこの作品を書き上げたと伝えられますが、序曲だけが初演に間に合わず、前年に初演された『イングランドの女王エリザベッタ』の序曲がそのまま転用されています。これは、ロッシーニならではの要領の良さが感じられる逸話です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。