クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第151回 クライスラー『美しきロスマリン』
イラスト/なめきみほ
永井荷風を魅了したヴァイオリンのスーパースター
今日1月29日は、オーストリア出身の世界的ヴァイオリニストにして作曲家、フリッツ・クライスラー(1875~1962)の命日です。
自らが演奏するために多くの作品を作曲&編曲したクライスラーでしたが、当初は自作であることを隠し、過去の作曲家による名曲を発掘したという名目で発表。これが1930年代に発覚してスキャンダルとなるなど、そのおおらかでお調子者的性格が、良くも悪くもクライスラーをクライスラーたらしめていたようです。
しかし、そのすばらしい演奏は人々を魅了。ラフマニノフとの共演による歴史的な録音などが残されています。日本には1925年5月に来日し、帝国劇場において聴衆を魅了。コンサートを体験した永井荷風がその様子を日記に記しているのも、素敵な歴史の一コマといえそうです。
クライスラーの代表作『美しきロスマリン』や、『愛の喜び』『愛の悲しみ』などの美しい小品は、今も世界中のヴァイオリニストたちが、コンサートで頻繁に演奏する人気曲です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。