〔特集〕挑戦し続ける名宿 最上級の温泉宿 コロナ禍という試練を経て、日本の名宿が、原点を見つめ直し、新しい時代の新しい高級旅館の有り様を提示しつつあります。守りに入らず攻め続ける、名宿の覚悟と挑戦から、今後のラグジュアリー温泉宿の潮流を探ります。
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あらや滔々庵──石川 山代温泉
有栖川宮家ゆかりの建物をスイートに
朗らかな笑顔で出迎える女将の永井朝子さん。
旅館本来の上質なおもてなしがより求められるように感じています── 永井隆幸さん(あらや滔々庵主人)2024年3月の北陸新幹線敦賀延伸により首都圏からも訪れやすくなる加賀温泉郷。その一つ山代温泉にある「あらや滔々庵」は、加賀大聖寺藩の前田家より湯番頭の命を受けて以来、18代を数える老舗旅館。古式ゆかしい宿として多くの文人墨客を魅了してきました。
本館から渡り廊下を抜けて離れの建物へ。中庭の椎の木も見事。
これまでも館内畳敷き、客室に源泉かけ流しの半露天風呂やベッドルームを設けるなど時代の潮流に合わせて改装を行ってきましたが、2023年秋に、ワインバーとして利用していた離れの「有栖川山荘」を客室としてリノベーション。
有栖川熾仁親王にちなんで名づけられた離れ「有栖川」。主人が選んだ現代アートやインテリアが飾られる。
風呂場から山庭の景観を望む。
和室2部屋に寝室、そしてヒノキの芳香漂う広々とした浴室を新設し、明治時代の柱や欄間などの意匠はそのままに、畳下には床暖房を施すなど快適かつ贅沢な空間へと変貌しました。
冬ならではの、王道美味
地元名物のブランド蟹を堪能
石川県で水揚げされたブランド蟹「加能蟹」の中でも別格とされる橋立港産ずわい蟹と香箱蟹。宿では、長年つきあいのある鮮魚店から直接仕入れている。無名時代の北大路魯山人が描いた山代温泉のシンボル・ヤタガラスが客人を温かく迎え入れてくれるかのよう。
土佐酢のジュレがきいた香箱蟹。
北陸の冬の名物といえば蟹ですが、宿で扱う橋立港産の蟹は、芳醇な甘さの身と濃厚なみそが特徴。蟹尽くしだけでなく懐石をベースに炭火焼きやゆで蟹を組み合わせるコースもあり、近年の「おいしいものを少しずつ」という要望にも応えます。九谷焼や山中塗に美しく盛られ、その華やかさにも心奪われます。
かぶらずしやさば棒ずし、なまこや白子など北陸の珍味をふんだんに盛り込んだ八寸(2人前)
椀物は甘鯛のかぶのすりながし。口子、にんじん、うぐいす菜、松葉ゆずを添えて。朝夕ともに部屋食はなくなり、個室ダイニングにて提供する。
「温泉にゆったり浸かり、土地の美味を味わい、部屋でくつろぐ。そんな日本ならではの旅館文化を堪能していただきたいです」と話す主人の永井隆幸さん。
スマートなサービスが主流の今、きもの姿の女将や仲居による心温まるおもてなしなど、ことに新鮮に映り、古きよき日本旅館の素晴らしさを改めて感じさせてくれます。
玄関脇に流れる源泉に浸かった温泉卵は朝食にも並ぶ。
あらや滔々庵(とうとうあん)住所:石川県加賀市山代温泉18-119
TEL:0761(77)0010
基本料金:1室2名利用で1泊2食付き1名4万8400円~、ずわい蟹コース1名7万8100円~ ご紹介した離れ「有栖川」は同19万8000円~(ともにサービス料込み)
全17室 IN14時/ OUT11時 蟹は3月31日まで
(次回へ続く。
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