クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第159回 シューマン『交響曲第3番“ライン”』
イラスト/なめきみほ
“聖なる川”ラインへの思いが込められた名曲
今日2月6日は、シューマン(1810~56)の『交響曲第3番“ライン”』の初演日です。
「ライン」とは、シューマンの祖国ドイツを流れるライン川のことです。スイスアルプスに端を発し、ドイツとフランスの国境を北に向かって流れ、オランダ国内で2つに分かれつつ北海に注ぐライン川は、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』の序夜『ラインの黄金』にも描かれているように、ドイツ人にとって極めて神聖な存在です。
シューマンにとってもそれは同様、1829年5月に母親に送った手紙には、ライン川を初めて見た感動が綴られています。『交響曲第3番“ライン”』の初演は1851年2月6日。シューマン自身の指揮によってライン川沿いの街デュッセルドルフで行われています。
徐々に精神を蝕まれていったシューマンは、初演の3年後にライン川に身を投げます。救助されて命はとりとめたものの、2年後にこの世を去ったのです。「ライン川はドイツの神のようにゆったりと音も立てずに厳粛に横たわっています」という母親宛ての手紙の一節が心に残る出来事です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。