ジュエリー見聞録 2月 宝石史研究家・山口 遼さんの解説で、素晴らしいジュエリーとその見どころをお届けします。
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1932年という時代に輝きを生むこと
解説/山口 遼(宝石史研究家)
ジュエリーに使われてきたデザインモチーフには、様々なものがあります。古いものほど自然の具象が多く、草花、動物、昆虫、鳥などいろいろとありますが、意外にも多いのが、太陽、月はもちろん、星などの天体、さらには雲とか雨などの天文現象です。
今回、「シャネル」が“コレクション 1932”と銘打ったジュエリーの中心は、天体をモチーフにしたもの。1932とは、マドモアゼル・シャネルが生涯で最初の、そして唯一のダイヤモンド ジュエリー・コレクションを発表した年を指します。
ブレスレットと指輪は、ともに「渦巻く彗星」を意味するもの。天空に長い尾を引いて突如としてあらわれ、やがて消えてゆく彗星、その美しさと奇抜さこそ、彼女が深く愛したモチーフです。子どもが描くお星様のようなシンプルな星を彗星の先端にセットし、長い尾を渦巻にしてデザインにしています。マドモアゼルはジュエリーに余計な部品がつくことを嫌い、とくに嫌いだったのがクラスプでした。これもともにダイヤモンドだけで極めてシンプルな美しさを生み出している。さすがとしかいいようがない、見事な潔さです。
1932年、世界大恐慌の後、第二次大戦の直前という微妙な時期にマドモアゼルが敢えてジュエリーコレクションを発表した理由は、次の言葉に込められています。「この危機を忘れてしまうには、美しく新しいもので人の目を楽しませるのが一番」。彼女らしい信念だと思いませんか。
まとう女性にパワーを与えるようなダイヤモンドの彗星モチーフブレスレットにあしらわれたオーバルシェイプのイエローダイヤモンドは、象徴的な意味を持つ19.32ct。リングにはファンシービビッドブルーダイヤモンドを用い、希少な輝きを放ちます。右・「コメット ヴォリュート」ブレスレット(WG×イエローダイヤモンド19.32ct×ダイヤモンド)3億5409万円(参考価格) 左・同リング(WG×ブルーダイヤモンド1.6ct×ダイヤモンド)7億6483万円(参考価格)/ともにシャネル
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