エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2024年2月号に掲載された第31回、平岩理緒さんによるエッセイをお楽しみください。
vol. 31 母と白味噌餡のお菓子平岩理緒2年程前より、時節の和菓子を何種類か食べ比べていただく食文化の講座を受け持たせていただくようになりました。その中でも人気が高かったのは、新年を寿ぐ「花びら餅」。春の「桜餅」、6月の「水無月」、炉開きの「亥の子餅」なども、初回・2回目と開催しましたが、どの店の品をお出しするか、前回とは傾向を変えて……などと考えながら選ぶのも楽しいものです。
「花びら餅」というお菓子を最初に教えてくれたのは母でした。熊本生まれの母にとって、元々、なじみのある品ではなかったようですが、大人になってから出会い、好きになったとか。私が子供の頃、大晦日あたりの買い物に同行すると、デパ地下の和菓子店で「花びら餅」を買うのが恒例でした。ごぼうの甘煮と白味噌餡が包まれた餅というのは、私にとっても由来が気になる興味深いもので、お正月にいただくのが楽しみでした。
自分が長じてからは、年末の帰省土産として買っていくことが多くなりました。同じ「花びら餅」と言っても、店や地域によって、餅生地がなめらかな求肥だったり、ふわふわの羽二重餅だったり、味噌餡の味やごぼうの食感など個性様々であることも、社会人になってから知りました。
常にアクティブな母は、お菓子一つにしても、「チョコレートケーキなら○○」とか「レアチーズケーキなら○○」といった様々なこだわりがあり、洋菓子は自分でもよく作っていました。大学進学時に上京し、九州との食文化の違いを感じたことは多かったそうで、まずラーメンの汁の色に驚いた、と話します。父と暮らし始めた町の菓子店の柏餅には、こし餡、粒餡と共に白味噌餡があり、それもまた珍しかったそう。その店の上品な甘じょっぱさが気に入り、白味噌餡の菓子も、今では母の中で定番の味となっています。
私がお菓子の食べ比べを好み、違いを学びながら自分の好きな品を探せるよう
な講座を続けているのは、母から聞いたそんな体験談が原点にあるのかもしれません。
平岩理緒スイーツジャーナリスト。マーケターとして食品メーカーのプロモーションやリサーチを担当、商品開発などにかかわった後、独立。菓子の基礎知識を製菓学校で学ぶ。1か月に200種類以上の和洋菓子を食べ歩き、雑誌やWEB、ラジオ、TV等さまざまなメディアで、トレンドや歴史文化などのスイーツ情報を発信。執筆のほか、セミナー講師や企業の商品開発コンサルティングなど多岐にわたり活動する。
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