クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第174回 カール・チェルニー『100番の練習曲』
イラスト/なめきみほ
教則本にその名を残す偉人の背景
今日2月21日は、オーストリアの作曲家、カール・チェルニー(1791~1857)の誕生日です。
ピアノ学習者にとって、バイエル(1806~63)やブルグミュラー(1806~74)にハノン(1819~1900)と並んで最も身近な教則本にその名を残すチェルニーは、ベートーヴェン(1770~1827)の弟子にして、フランツ・リスト(1811~86)の師という、もの凄い経歴の持ち主です。
当代一のピアニストでもあったベートーヴェンは第1番から第4番までのピアノ協奏曲はすべて自らのピアノによって初演してきましたが、難聴によって『第5番“皇帝”』は断念。ウィーンでの初演をチェルニーに任せたことからも、彼に対する信頼のあつさが伺えます。
さらには、リストにとって生涯唯一の師がチェルニーであることも特筆に値します。リストは彼への感謝を込めて、空前の難曲『超絶技巧練習曲』を献呈しています。後年は、演奏活動から身を引いて、作曲家・教師・音楽理論家としての天職を見いだしたチェルニーは、今も多くのピアノ学習者たちの導き手であるようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。