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- 阿川佐和子さん、お母様譲りのシックなきもの×帯結びアレンジで魅せるパーティの装い
自分できものが着られるようになると、ハレの日の外出にこそ、その成果を発揮したくなるものだ。さてさて、どのきものを着ていこうかしら。どの帯をしめていこう……と迷うほど、実は訪問着もよそいき帯もさほど持ち合わせがない。思えば前回も同じきものと帯の組み合わせで出かけたような……。
誰しも一発奮起してきものを買う際に、「この着物にこの帯のセットさえ持っていれば、どんなお呼ばれでも通用しますよ」 そんなふうに薦められ、「よそいき用きものセット」と表書きをして箪笥の同じ場所に納めていることが多い。
私もそうだった。はるか昔の話になるが、二十歳になったとき、母に買ってもらったのは、グレー地に色とりどりの小さな柄の入った加賀小紋の中振り袖のきものと、それによく合う白地に金糸が混ざった亀甲柄の帯である。そのとき呉服屋さんが、「このきものなら、歳を重ねてから袖を短くすれば立派な訪問着として使えます」と言ってくれたのも気に入った。長く着られる。娘時代の遺物とはならない。いいね、いいね。
その後、加賀小紋のきものと亀甲柄の帯はたしかにセットで大活躍をした。友達の結婚披露宴に招かれるたび、ちょっとしたパーティに出席するたび、私はいそいそとその組み合わせを持って美容院へ駆け込んだ。しかし、しばしのち、会場で撮った写真を見返すたびに戸惑うのである。これはいったい誰の結婚披露宴の写真だったっけ? いつのパーティの写真だっけ? 区別がつかない。私はいつもそのきものにその帯を巻いて参列していたからである。
呉服屋さんに言われた通り、そのあと加賀小紋のきものは袖を切り、もはや中振りではなくなった。が、亀甲帯とのセット出演は変わらない。母が残してくれたきものと帯のおかげで、よそいきの選択肢は多少広がった。とはいえ、組み合わせ方はどうしても限られる。どうすれば変化をつけられるであろう。
そこに現れたのがカリスマ着付師のイッシーと有能きもの編集者のカバちゃんのアドバイスだ。
「帯の結び方を変えればグッと雰囲気が変わりますよ」
そうか、必ずしもお太鼓でなければいけないという決まりはないのだ。この歳で成人式に行く娘のように華美になるのも気が引けると思っていたが、帯の選び方次第で無理な若作りにはならないことがわかった。背中に蝶々や花を背負っても、決して派手すぎることはない。むしろ、それまで見慣れていた帯が、お太鼓とは違う華麗な魅力を醸し出すことに気がついた。
残る問題は、自分の力で結ぶことができるかどうかである。
「大丈夫大丈夫。簡単だから」
イッシーは私の背中で帯を手際よく結んだり折り畳んだり広げたりしながら軽くおっしゃいますけれど、着付け初心者の私は不安になる。いくらイッシーの手元を見つめていても、とんと頭に入ってこない。
帰宅後、とりあえず半幅帯で練習してみることにした。結ぶ作業を身体の前面で行う。お腹の上に結び目を持ってきて、どうすれば蝶々結びができるのか、研究するのである。うまく結んだ暁には、帯をぐるりと回して背中に移動させる。で、うまくいったかって? ホホホ。また猛特訓中。聞かないで。
もう一つ、帯を華やかに見せる手立てとして、帯留めの存在があるという。帯留め? そんなものを持っていたかしら。そこで思いついた。アクセサリー箱から、もはや放置して久しい古いブローチを取り出してみれば、あら、帯留めにちょうどいいではないですか。ブローチとしては使わなくなったけれど、案外、帯留めとして復活できそうなものがある。華麗への道は楽しみがいっぱいだ。
撮影/森山雅智 伏見早織(本誌・取材) ヘア&メイク/田中舞子(VANITÈS) 着付け/石山美津江 構成・取材/樺澤貴子