サイレントキラーの病に備える 第2回(1) 静かに体を蝕み、進行すると命にかかわるサイレントキラー。第2回は全身に影響し、死亡リスクを高める「骨粗しょう症」です。山陰労災病院副院長・リハビリテーション科の萩野 浩先生(日本骨粗鬆症学会理事長)に骨粗しょう症の怖さや予防、検診などについて伺います。
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“気づいたときには手遅れ”にならないように「骨粗しょう症」
[お話を伺った方]萩野 浩先生山陰労災病院 副院長 リハビリテーション科
萩野 浩先生
はぎの・ひろし 1982年鳥取大学医学部卒業。同附属病院整形外科での研修後、松江整肢学園等を経て同大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。米国クレイトン大学骨粗鬆症センター留学から帰国後、鳥取大学医学部で整形外科講師、附属病院リハビリテーション部部長、保健学科教授を歴任。2023年4月から現職。日本骨粗鬆症学会理事長。
骨は常に作り替えられながら、体を守っている
骨は体を支え、内臓を保護し、骨髄で血液を作るという大切な働きをしています。血圧の調節などに必須のカルシウムを蓄える貯蔵庫でもあります。
骨の材料は主にたんぱく質の一種であるコラーゲンとカルシウムです。コラーゲンが骨細胞として土台となり、それをリン酸カルシウムが包んでいます。内側には海綿質があり、さらに奥に骨髄があります。
骨の表面には、骨を壊す破骨細胞と骨を作る骨芽細胞があり、古くなった骨を破骨細胞が壊して吸収した後、骨芽細胞が新しい骨を作ります。
●骨の吸収と形成
骨は表面にある骨芽細胞と破骨細胞によって常に作り替えられている。骨吸収期(下のイラスト・上)では破骨細胞が古い骨基質を壊して吸収する。その後、骨形成期(下のイラスト・下)となり、骨芽細胞が破骨細胞が壊したのと同じ量の新しい骨基質を作って活動を停止する。新しい骨基質は成熟して硬くなる。この骨の吸収と形成のバランスが崩れると骨粗しょう症になる。
この骨を「壊す」と「作る」のスピードやタイミングがバランスよく整っていると今までと同じ骨ができます。ところが、このバランスが崩れると海綿質がスカスカになるのです。これが骨粗しょう症です。
背骨が折れていても症状が軽く、気づかないこともある
骨粗しょう症は骨折の原因となります。特に折れやすいのが、肩の上腕骨、手首の橈骨(とうこつ)、背骨(脊椎)、脚のつけ根の大腿骨近位部です。
多くは転倒したときの衝撃で折れます。ただ、「背骨の骨折で診察を受けた人は実際の患者さんの3分の1というデータがあります。つまり、3分の2の人はギックリ腰かな、ちょっと腰痛が続くな、などと思っているうちに症状が気にならなくなるために受診しないのです」と萩野 浩先生。ところが、いったん背骨を骨折した人は診察を受けても受けなくても「別の骨折する割合が高くなることがわかっています」。
骨粗しょう症は、治療をしなければ、さまざまな部位を骨折するドミノ骨折(骨折の連鎖)を引き起こすのが怖いところです。
骨折は、痛みや動かしにくさによる日常生活の不便さを招くだけでなく、大腿骨近位部骨折では寝たきりの原因になります。また、背骨の骨折による姿勢の異常で内臓が圧迫されて、逆流性食道炎や胃腸障害を発症する場合もあります。猫背が進んで外出が嫌になるなど精神的なダメージにもつながるのです。
●骨粗しょう症による骨折はさまざまな部位で起こる
骨粗しょう症による骨折は上腕骨、手首の橈骨、背骨、大腿骨近位部で起こりやすく、いずれも生活の質を下げてしまう。背骨の圧迫骨折に気づかない人は意外に多く、いつの間にか身長が低くなったり、猫背になったりしていることがある。
(次回へ続く)
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