「食塩摂取量と血圧上昇」の関連からわかった
“節塩”することが未来の健康を守ります
東京大学名誉教授
佐々木 敏先生ささき・さとし 京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(ともに女子栄養大学出版部刊)。
長年の食塩摂取量の影響で年をとると血圧が上がる
誰もが食塩の摂りすぎが健康によくないことはよく知っています。高血圧症と胃がんの発症に食塩の過剰摂取が強く関与することがわかっています。高血圧症も放置すると心筋梗塞や脳卒中に進展するおそれがあるため侮れません。若い頃は血圧が低かったのに年齢とともに上がった人は決して少なくないはずです。
「年をとると血圧が上がるのは自然な加齢現象ではなく、長年摂取してきた食塩量の影響を強く受けていることが、世界32か国から選んだ52の地域に住む合計約1万人を対象とした大規模疫学調査から明らかになっています」と佐々木 敏先生は興味深いデータを示します。
この疫学調査をもとに食塩摂取量と血圧上昇量を計算すると、1日あたり1グラム(ひとつまみ)の食塩摂取で1歳年をとると、血圧が0・058mm Hg上がる計算になります。日本人成人の食塩摂取量の平均値は1日あたり10グラム(小さじ2)程度であることから、1歳年をとるごとに血圧が0・58mm Hg上昇すると推測されます。日本人の血圧と加齢の関係を調査した結果からも平均的日本人は1歳年をとるごとに血圧が0・6mm Hg上昇することが判明しており、推測値と実測値はほぼ一致します。
「これらの研究結果から食塩摂取量の違いがその後の血圧上昇に与える影響について試算してみましょう」と佐々木先生。それが下のグラフです。
35歳で収縮期血圧(上の血圧)が126mm Hgの人が1日あたり14グラムの食塩摂取を30年続けると、65歳のときには血圧が150mm Hgまで上昇し高血圧症になります。一方、1日あたり7グラムの食塩摂取を続けると65歳のときの血圧は138mm Hgまでの上昇に抑えられます。
そしてグラフをよく見てください。1日14グラムの場合は50歳のときにすでに138mm Hgに到達しています。しかし、1日7グラムでは毎日食塩を減らすことで同じ血圧に到達するのに15年も遅くすることができたのです。
「生涯にわたる減塩がとても大切であることがおわかりいただけたでしょう。食塩の摂取は1日に何グラムではなく一生で何キログラムと考えるべきものなのです。この考え方は節約と似ています。おいしくて味の決め手になる塩を減らすのは難しいことですが、毎日少しずつ“節塩”する気持ちで取り組みましょう。今日から始めても遅いことはありません」
今月の「食行動」に生かせる注目データ
食塩を減らすことで血圧年齢を若く保つことができる!食塩摂取量の違いが将来の血圧上昇に与える影響についての試算
『佐々木敏の栄養データはこう読む!』佐々木 敏 著(女子栄養大学出版部刊)P.97を参考に作成
●研究内容
日本人男女を対象にした加齢に伴う血圧上昇変化の調査(1971年)をもとに、当時の日本人の平均的な血圧の人が1日あたり14gと7gの食塩をそれぞれ摂り続けた場合の血圧の経年変化を、過去の研究(1日あたり1gの食塩摂取で1年ごとに0.058mm Hg血圧が上昇する。よって1日あたり10g摂取している人の血圧は10年で5.8mm Hg上昇する)から試算して予測した。
●食べ方の改善点
おいしい塩をほんの少しだけ食べる日本人の食塩摂取量基準は男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満。日本人の食塩摂取源調査では、しょうゆ、食塩、他の調味料、みその順に多かった。これらの食品は値が張るものにすると大事に少しずつ食べるので食塩摂取量を減らしやすい。パン、チーズ、ハムなど加工品も塩分が多いので注意する。
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