花が少ないこの季節には存在感のある枝ものを大胆に生かしてみる
語り/小林 厚 苔付きの桜枯木の太い枝と白い椿一輪を小ぶりの花器に。大胆に右側へと伸びる 枯木を、薬師寺の土を用いたという器が受け止めている。シックながらも表情豊かな碗なりの花器は樂 直入の作。器の右下がりの形を生かして、枝を傾けている。桜の枝も椿も器と一体になり、まるでそこから生えてきているかのような印象さえある。全体としてはそれほど大きな花ではないにもかかわらず、エネルギーに溢れた力強い作品になっている。
枝ものをメインに入れる場合、枝のちょっとした向きで全体の印象がガラリと変わります。花器に入れる前に、いろいろな角度から眺めて枝が持つ美しいラインを見つけ、仕上がりをイメージすると、そのあとの作業がやりやすくなります。
現代作家(黒田泰蔵作)の白磁大壺に、それぞれ枝ものを入れた例。左は紅白の木ぼ瓜けを入れてこの季節のめでたさを表現。右はわずかに蕾がつく梅の細い枝を伸びやかに入れている。壺の口もとに添えた白椿は全体を引き締める核の役割を果たす。
たとえば上右写真の梅はほとんどが細い枝なのですが、どの枝を残すか、向きをどうするかを考えます。もとの花材にはもっと枝がついていたのですが、極限まで切り落とすことでイメージしたラインが際立ってくるのです。
紅梅、隈笹、鳳凰竹を桃山時代の備前花入に。掛け物に描かれた白梅に、紅梅を添えるという当意即妙の花。落ち着いた土味の備前花入が紅梅や背後の絵を引き立てている。
今回、座敷の床の間には松竹梅の画幅を掛け、その前に紅梅を入れました。茶席では花の画幅を床の間に掛けるときには、花は入れずに花入だけを置くことがあります。掛け物に描かれた花との重なりを避けるため、このような配慮をするのですが、この法則に従えば床の間には酒井抱一が描いた松竹梅が掛かっていますから、花入には花を入れないことになります。
ところがちょうど枝ぶりのよい紅梅を見つけたので、少し遊ぶことにしました。描かれた白梅に呼応させるように、画幅の前に紅梅をかざってみたのです。抱一の絵に対して、このようなことをしていいのかという感はありますが、抱一の白梅に触発されたのです。
継続して花を入れていると、時にこれまでの概念を超える瞬間があります。花が描かれた掛け物には花を入れないという考えでいたけれど、今回それを打ち破れたのが嬉しくもありました。
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