〔特集〕挑戦し続ける名宿 最上級の温泉宿 コロナ禍という試練を経て、日本の名宿が、原点を見つめ直し、新しい時代の新しい高級旅館の有り様を提示しつつあります。守りに入らず攻め続ける、名宿の覚悟と挑戦から、今後のラグジュアリー温泉宿の潮流を探ります。
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オーベルジュ ときと(東京・立川)
「この土地の歴史や自然を受け継ぎ、届けていきたい」 石井義典さん(オーベルジュ ときと総合プロデューサー)庭園にひっそりと佇む平屋造りの宿坊、食房、茶房。東京都心ほど近く、立川にいることを忘れるほど、「オーベルジュ ときと」の時間は静けさの中でゆっくりと流れます。
わずか4部屋。すべてに地下1300メートルから汲み出した、かけ流しの露天風呂を備えます。
かけ流しの露天風呂を満喫する4部屋のみのプライベートな空間
独自に掘削したかけ流しの温泉は褐色の炭酸泉。広々とした大理石の湯船には、寝湯も。左手のプライベートデッキで、火照りをしずめる時間も格別。
正門をくぐると樹齢80年超の松に迎えられる。
洋タイプ「ASAZUKI」のリビング。和洋各2部屋すべて100平方メートル以上の広さを有し、レコードプレイヤーが設置される。
ここは昭和初期に開業した老舗料亭「無門庵」のあった場所。「刻まれた歴史、残された自然を後世につなぎながら、新たな食の発信地として育てたい」。
そう話す総合プロデューサー兼総料理長の石井義典さんを筆頭に、「京都𠮷兆」で出会った大河原謙治さん、日山浩輝さんの3人の料理長によって和のオーベルジュとして、2023年4月に生まれ変わりました。
温泉宿に参入。世界に発信する和のオーベルジュ
3人の料理長が手がける日本料理を手作りの器で
臨場感溢れる食房、檜のカウンター。総合プロデューサー兼総料理長の石井義典さんが作陶した器が並ぶ。手前から石井さん、イタリアの3 つ星店でも修業を重ねた料理長の日山浩輝さん、京都の懐石料理店を星つき店へと導いた総支配人兼料理長の大河原謙治さん。
「懐石料理の伝統を重んじつつ、国内外で経験を積んだ料理人の感性や技が融合してでき上がる日本料理をお出ししたい」。固定概念を覆す食材の組み合わせや、食材として日の目を見ることの少ないオクカジカなどからだしをとるなど、技と手間をかけて多彩な味を生み出します。
石井さんお手製の版画のメッセージカードを敷いた「堀口切子」の器に、くえと車海老のお造りを。中央には利尻昆布と塩で作ったソース“旨塩(うじお)”。宿名の由来の一つ、美しい空の“鴇(とき)色”にちなみ、ロゼシャンパーニュが花を添える。
北海道日高の昆布を食べて育った黒毛和牛“こぶ黒”と岩がきのお椀。海と山のものを同居させ、まぐろ節の一番だしと合わせた斬新な組み合わせ。
右・手前は根セロリとふなずしのコロッケ、きんきと熟成生ハム。奥は鴨尽くし。左・食房の離れでいただく朝食。烏骨鶏のだしで炊いた黒米と雑穀米のお粥に、旬野菜の浅漬けや、クロテッドクリームとナッツやベリーを入れる。
器の多くは、石井さんが作陶したもの。西国立の土や調理中に出た灰などを用いて、敷地内の工房で焼き上げます。日山さんから、考案した料理に合う器を要望されることもしばしば。一品のために手がけられた器でいただけるのも醍醐味です。
茶房で夕食前にお茶を一服。
オーベルジュ ときと住所:東京都立川市錦町1-24-26
TEL:042(525)8888
基本料金:1室2名利用で1泊2食付き1名17万1125円~(サービス料込み)
全4室 IN14時/OUT11時
16歳未満不可
(次回へ続く。
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