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【手塚雄二・龍を描く 第2回】6×12メートルの天井板に直接描くという冒険

2024.02.05

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強力な助っ人登場で作業に拍車をかける

小下図の次は大下図。実際の天井と同寸の絵を墨書きします。

今回の天井絵の最大の特徴の一つは、和紙に描いてそれを天井に貼るのではなく、実際の天井板そのものに描くというところにあります。天井板を一度はがして絵を描き、それをまた天井に嵌めるという大作業です。描く天井板は25枚、400年近く前の天井板は幅も不揃い。大下図では板の幅にぴったり合わせた細長い和紙に描き、それを一枚につなぎます。

この大下図の作業から手塚さんが助っ人として協力を仰いだのが、加来万周(ばんしゅう)さん、永井健志(たけし)さん、松下雅寿(まさとし)さんの3人の日本画家です。いずれも手塚さんの教え子であり、日本画壇で活躍中。実力十分の強力な助っ人です。2021年の4月に作業を開始。毎週月曜日に今回特別にアトリエとして使わせてもらった寛永寺内の徳川宗家の霊殿に集まり、作業は営々と進められました。


小下図をグリッドで区切り、大きな紙に精確に写していく作業は、模写に慣れた藝大の手塚門下生であればお手のものとはいえ、大変な作業であることに変わりはありません。大下図に写す段階で、爪の角度を変えるなど、やり直しも多数。時に場所を輪王殿に移し、櫓の上から全体を眺め、調整を図っていきます。この段階で既に龍は迫力で迫ってきます。

「今まであったような龍の絵ではなく、手塚のオリジナルの龍を描きたい。でもそれを一人でやるのは難しい。小さな絵と大きな絵では勝手が違いすぎるくらい違う。僕も初めてですが彼らの手伝いのお陰で、よくここまで来たと思います」

中陣に仮貼りされた大下図。下図なのに龍が今にも飛びかかってきそうなこの迫力。絵の向きは内陣の御本尊から見る向きとなる。

中陣に仮貼りされた大下図。下図なのに龍が今にも飛びかかってきそうなこの迫力。絵の向きは内陣の御本尊から見る向きとなる。

大下図が完成すると、念紙を使って板に転写し、墨書きしていきます。同時に白く描く部分に、膠で溶いた白土を載せていきます。

白土には手塚流のこだわりがあります。京都の養源院にある俵屋宗達が描いた「白象図」は、杉戸に輪郭を墨書きし、線を残す彫り塗りによって白い象を描いています。白土は時を経るといずれ剝落していき、墨の線が残ります。今回の制作ではその手法を踏襲しつつも、線にも白土を塗り、その上からもう一度墨書きするのです。

「文化財保存の考え方では白土を全面に塗るのですが、龍だけを白土に食い込ませるように塗りました。でもいずれは剝落する。その時、その下から墨の絵が出てくるようにしているわけです。これは大和絵の描き方で、大和絵では白い紙に墨で輪郭線を描いて地塗りで真っ白にし、彩色し、最後に墨でもう一度線を起こします」

〔龍の制作記〕2021年11月29日 寛永寺霊殿
大下図制作

実際の天井と同じ大きさの和紙に描くのが大下図。下図とはいえ、細部にわたって完成時のイメージに近づけるのは小下図と同じだ。小下図の絵を大きく転写するだけでも大変な作業で、そこにさらに微細な修正を加えていく。

板と絵の関係を示した図。縦に長い板を横に並べた形で番号が振られている。

板と絵の関係を示した図。縦に長い板を横に並べた形で番号が振られている。

作業写真・手塚さんと教え子である日本画家3人の助っ人が黙々と作業を進める。

〔龍の制作記〕2021年12月13日 寛永寺輪王殿
大下図の全体を見る

関係者への大下図公開を兼ね、寛永寺輪王殿に一時的に作業場を移動。寛永寺の仮アトリエでは絵を全部並べることができなかったが、広さと天井高があるため設置した櫓から全体像を確認することができる。

大下図に使う墨と刷毛。

上から見下ろすと龍が飛び出してきそう。

強力助っ人の一人、日本画家の永井健志さん。緻密な作業を淡々とこなしていく。

〔龍の制作記〕2021年12月21日 寛永寺根本中堂
大下図仮貼り

手塚さんの希望で、絵の完成イメージをつかむため、建設会社の手により大下図が中陣に仮貼りされた。見る位置によって遠近のパースや見える部分が変わる。手塚さんはさまざまな位置から見え方を入念に確認。

大きさを変えた龍の黒目のサンプル。大下図では黒目は描かれていないので、これらを白目に試験的に貼って、龍の表情から受ける印象の違いをチェックする。


2024年、『叡嶽双龍』と出会う
「手塚雄二展 龍は雲に従う」が開催されます

東叡山寛永寺根本中堂天井絵完成を記念しての展覧会「手塚雄二展 雲は龍に従う」が各地で開かれます。2025年の奉納前に絵の全貌を間近に見られる唯一の機会です。

●日本橋三越本店(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
2024年2月16日(金)~3月4日(月)本館7階催物会場
2024年2月14日(水)~3月5日(火)本館1階中央ホール(天井絵)

●福井県立美術館(福井市文京3-16-1)
2024年6月21日(金)〜7月7日(日)天井絵のみ展示

●そごう美術館(横浜市西区高島2-18-1)
2024年10月19日(土)~11月17日(日)そごう横浜店6階

●松坂屋美術館(名古屋市中区栄3-16-1)
2024年12月7日(土)〜25日(水)松坂屋名古屋店南館7階

(次回へ続く。この特集の一覧>>

手塚雄二さん(てづか・ゆうじ)
日本画家。1953年、神奈川県生まれ。日本美術院同人・業務執行理事、東京藝術大学名誉教授。東京藝術大学大学院美術研究科(日本画)で平山郁夫氏に師事。卓越した技術で描く自然や風景は、宇宙的な奥行きを感じさせ、現代美術としての日本画をリードする。受賞、個展多数。後進の育成にも尽力している。

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年02月号

家庭画報 2024年02月号

※手塚さんの「塚」は旧字体(塚にヽのある字)です。表示環境によって新字体で表示されることがあります。 撮影/鈴木一彦 取材・文・構成/三宅 暁〈編輯舎〉 取材協力/東叡山寛永寺

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