クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第166回 ワーグナー『ジークフリート牧歌』
イラスト/なめきみほ
波乱万丈な人生を送った男の安らぎの時
今日2月13日は、19世紀を代表するオペラ作曲家リヒャルト・ワーグナー(1813~83)の命日です。
従来のオペラの概念を打ち破り、新たな音楽劇を創造したワーグナーは、自らの作品を理想的に上演するための施設「バイロイト祝祭劇場」を建設。彼を援助したバイエルン国王ルートヴィヒ2世との確執は、ビスコンティ監督の映画『ルートヴィヒ』に詳細に描かれています。
波乱万丈極まりない生涯を送ったワーグナーの人生において、最も穏やかな時期の音楽が『ジークフリート牧歌』でしょう。1870年12月25日の朝のこと、誕生日を迎えたワーグナーの妻コジマが耳にしたのは、部屋の外から聞こえてくる美しいメロディでした。この音楽が、愛する妻との結婚の喜びと、息子ジークフリートを生んでくれたことへの感謝の想いを込めた、ワーグナーからのサプライズプレゼントとして作曲された『ジークフリート牧歌』だったのです。
ワーグナーとその妻コジマは、バイロイトの自宅ヴァーンフリート荘の裏庭に、今も静かに眠っています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。