サイレントキラーの病に備える 第3回(1)視野が欠けて見えにくくなる緑内障は目のサイレントキラーです。さらに、緑内障は生活の質を下げ、フレイル、うつ、認知機能の低下も引き起こします。その病態や原因、早期発見について、日本緑内障学会理事長である東京大学大学院医学系研究科眼科教授の相原 一先生に伺います。
前回の記事はこちら>>
“気づいたときには手遅れ”にならないように「緑内障」
[お話を伺った方]相原 一先生東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 眼科 教授
相原 一先生
あいはら・まこと 1989年東京大学医学部卒業。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校ハミルトン緑内障センターに留学、主任研究員としてマウスの緑内障モデルの確立や緑内障の点眼薬の開発に関わる。帰国後、東京大学医学部眼科講師、同准教授、四谷しらと眼科副院長を経て、2015年から現職。20年から日本緑内障学会理事長。
目の中の房水の滞留で眼圧が上がるのが原因
目の内部には房水が流れており、血管がない角膜や水晶体に栄養を与え、老廃物を取り除いています。また、眼球内の圧力を調節して球体を保てるようにしています(下イラスト)。
この房水の流れが滞り、眼圧が上がると目の奥にある視神経が圧迫されて傷つきます。さらに加齢などで視神経が減ることがあります。それらによって視野が欠けるのが緑内障です。
この視野の欠損は、緑内障がかなり進行しないと自覚できません。「ヒトの視覚はよくできていて、鼻側の120度の範囲は、片方の視野が欠け始めても脳が正常に見えているように補正します。しかも、緑内障の視野欠損は鼻側から始まります。ですから、もし視野が欠け始めていても両目で見ていると気づけません」。視野の真ん中が欠けない限り視力は落ちず、色や形は見えます。「霧がかかったようにぼやけるというのが進んでからの自覚症状で、年のせいかな、白内障かな、などとそのままにされることも多いのです」。
緑内障は加齢とともに有病率が上がり、60代以降は1割程度となります。「患者数が多いため、日本人の成人における失明原因の第1位となっています。将来、見えなくなると不安を抱える患者さんがいらっしゃいますが、早期から治療して進行を緩やかにできれば、寿命を全うするまで生活に困らない方がほとんどです」。
とはいえ、いったん傷ついた視神経は治らず、減った視神経は増えません。「緑内障は完治せず、残っている視神経を長持ちさせることが治療の目的となります。眼鏡で補正できるといったものでもありません。発見されたときの重症度がその後の目の見え方を左右します」。治療を始めても視神経の変性や減少は急に止まるわけではなく、視野欠損が進行することもあります。だからこそ、早期発見・早期治療が重要なのです。
(次回へ続く)
・連載「サイレントキラーの病に備える」の記事一覧はこちら>>>