クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第183回 ショパン『ピアノ協奏曲第1番』
イラスト/なめきみほ
祖国を旅立つ20歳のショパンによる惜別の曲
今日3月1日は、“ピアノの詩人”ショパン(1810~49)の誕生日です。
ショパンの作品は、その全てを演奏したとしても、約22時間にしかなりません。これは、モーツァルトやベートーヴェンなど、クラシックを代表する他の作曲家に比べて桁違いに少ない数字といえます。しかし、たったこれだけの時間で歴史に残る名声を得たのがショパンなのです。
ショパンが生きたロマン派の時代の作曲家たちにとって、ピアノは絶対に避けて通れない重要な楽器でした。そして、ショパンほどピアノに特化した作曲家は存在しません。これがまさに、ショパンが“ピアノの詩人”とたたえられる理由でしょう。
ショパンは生涯に2曲のピアノ協奏曲を残しています。そのどちらも彼が祖国ポーランドを離れる直前に書かれた作品です。20歳のときに書かれた「ピアノ協奏曲第1番」は、音楽家としての新天地を求めてウィーンに旅立つショパンのための壮行会で初演された名曲です。
そこには永遠の別れにも等しい意味があったのでしょう。そしてその言葉通り、ショパンは再び愛する祖国の土を踏むことはありませんでした。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。