クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第188回 ヴェルディ オペラ『椿姫』
イラスト/なめきみほ
オペラ史上の“三大失敗”に数えられた名作とは
今日3月6日は、イタリアのオペラ作曲家ヴェルディ(1813~1901)のオペラ『椿姫』の初演日です。
1840年頃のパリを舞台に、高級娼婦ヴィオレッタの華やかな生活、そして恋と薄命を描いたこの作品は、今も多くのオペラファンの心を掴んで放しません。作品冒頭、ヴィオレッタとその恋人アルフレードが出会うシーンで歌われる「乾杯の歌」は、オペラ史上最も有名なデュエットのひとつ。
さらには「私はいつだって自由」と歌うヴィオレッタを待ち受ける悲しい運命が、この作品の美しさと儚さ引き立てます。ヴィオレッタこそは、オペラ史上最高の名花の1人といえるでしょう。
1853年3月6日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で行われた初演は準備不足等によって大失敗。高級娼婦が主人公という道徳的な問題もあったようです。この出来事は、『蝶々夫人』『カルメン』と共に、“オペラ史上3大失敗”などといわれますが、3作共に、後に大人気作となったのですからわからないものです。
まさに時代を超越した名作ならではの出来事なのでしょう。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。