クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第192回 サン=サーンス『序奏とロンド・カプリチオーソ』
イラスト/なめきみほ
ヴァイオリン史上屈指の名手への捧げ物
今日3月10日は、スペインの作曲家にして名ヴァイオリニスト、パブロ・サラサーテ(1844~1908)の誕生日です。
スペインのパンプローナに生まれたサラサーテは、8歳で初の公開演奏を行い、10歳の時に、スペイン女王イザベル2世の前で演奏を披露。13歳にして名門「パリ音楽院」ヴァイオリン科の1等賞を得るという、桁外れの神童でした。
演奏の特徴は、華やかな装飾音やロマ音楽を彷彿させるスーパーテクニックに裏打ちされつつも、「まるで鳥のナイチンゲールが歌うようだ」とたたえられた音楽性あふれるものだったようです。その演奏は、同時代の作曲家たちを魅了。多くの作曲家が彼に曲を献呈しています。
一例を上げれば、ラロの『スペイン交響曲』に、ブルッフの『ヴァイオリン協奏曲第2番』&『スコットランド幻想曲』、そしてサン=サーンスの『序奏とロンド・カプリチオーソ』&『ヴァイオリン協奏曲第3番』などが名を連ねるのですから壮観です。
中でもスペイン風の情緒に満ちたヴァイオリンと管弦楽のための協奏的作品『序奏とロンド・カプリチオーソ』は、すべてのヴァイオリニストにとっての指標的名曲となっています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。