クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第201回 J・S・バッハ『パルティータ第1番』
イラスト/なめきみほ
夭逝の天才ピアニストが残した“白鳥の歌”
今日3月19日は、夭逝の天才ピアニスト、ディヌ・リパッティ(1917~50)の誕生日です。
ルーマニアの首都ブカレストに生まれたリパッティは、11歳にしてブカレスト音楽院に入学。1933年に行われた第1回「ウィーン国際ピアノコンクール」において第2位となりますが、審査員を務めていた名ピアニスト、アルフレッド・コルトー(1877~1962)がこの結果に抗議して審査員を辞任。まさに天才伝説の始まりでした。
1936年にパリで本格的なデビューを飾り、将来を嘱望されていたリパッティでしたが、不治の病(ホジキンリンパ腫)に冒されて、1950年12月2日、33歳の若さでこの世を去ってしまいます。
そのリパッティが残した数枚のアルバムの中でも極め付けの名演が、死の2か月前に行われた『ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル』でのJ・S・バッハ(1685~1750)の『パルティータ第1番』です。彼が命を削るようにして教えてくれたバッハのすばらしさは、時を超えて私達の心に刻まれます。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。