クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第202回 J・S・バッハ『平均律クラヴィーア曲集』
イラスト/なめきみほ
“音楽の旧約聖書”に挑んだ求道者
今日3月20日は、20世紀最大のピアニストの1人、スヴャトスラフ・リヒテル(1915~97)の誕生日です。
ウクライナ生まれのリヒテルは、ほぼ独学でピアノを学びます。15歳でオデッサ歌劇場のコレペティトール(オペラやバレエの伴奏をしつつ指導を行うピアニスト)となって腕を磨き、22歳にしてモスクワ音楽院に入学。そこで大ピアニストで名教師、ゲンリヒ・ネイガウス(1888~1964)と出会ったことが彼の運命を大きく変えたのです。
その後は、1歳年下のエミール・ギレリス(1916~85)と共に、ソ連の誇る2枚看板として活躍。その圧倒的なテクニックと深い音楽性によって、冷戦当時の西側の音楽界を震撼させたことは、今も語り草です。
そのリヒテルが1970年代初頭に録音したJ・S・バッハ(1685~1750)の『平均律クラヴィーア曲集』全曲は、まさにピアノ演奏史上の金字塔といえる名盤です。 “音楽の旧約聖書”とたたえられるバッハの名作に挑むリヒテルの姿は、さながら“音楽の求道者”といった趣です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。