クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第203回 ムソルグスキー オペラ『ボリス・ゴドゥノフ』
イラスト/なめきみほ
早逝した才能の巨大な夢のかけら
今日3月21日は、ロシア国民楽派を代表する作曲家ムソルグスキー(1839~81)の誕生日です。
ロシア貴族の末裔にして、代々軍人の家系に生まれたムソルグスキーは、ペテルブルグの士官学校を経て近衛連隊に入隊。当時のロシアの作曲家同様、音楽の他に仕事を持つという生活を続けます。
しかし、1858年に、音楽の道に専念することを決意して退役。“力強い仲間たち”と呼ばれる「ロシア5人組」の1人として作曲活動に専念。しかし、士官学校時代からの飲酒癖と経済的な困窮などの影響により、42歳にしてこの世を去ってしまいます。代表作であるピアノ組曲『展覧会の絵』や管弦楽曲『禿山の一夜』のほか、多くの未完のオペラを手がけていただけに、その早すぎる死が惜しまれます。
最も名高いオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』は、ロシアの実在のツァーの生涯を描いた意欲作です。完成は1869年12月。上演を帝室歌劇場管理部に直訴するも却下され、改定を重ねた結果、1872年に現在の姿となりました。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。