クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第205回 チャイコフスキー ピアノ三重奏曲『偉大な芸術家の思い出』
イラスト/なめきみほ
故人を偲んでピアノ三重奏曲を捧げる美しき伝統
今日3月23日は、ロシアの音楽教育者でピアニスト、ニコライ・ルビンシテイン(1835~81)の命日です。
偉大な兄アントン・ルビンシテイン(1829~94)と共にロシア音楽界の発展に尽くしたニコライの業績は、ロシアの名門「モスクワ音楽院」を開設し、初代院長に就任したことを筆頭に、チャイコフスキー(1840~93)の親友として、大作曲家の創作活動にさまざまな影響を与えたことが知られています。
ニコライの死を悲しんだチャイコフスキーは、“悲しみの三重奏曲”と呼ばれるピアノ三重奏曲を作曲し、『偉大な芸術家の思い出』と題してニコライに捧げたのです。この、「故人を偲んでピアノ三重奏曲を作って捧げる」という美しい伝統は、後に続く作曲家たちにも受け継がれます。
尊敬するチャイコフスキーの訃報を受け取ったラフマニノフが、大きな喪失感と悲しみの中で、『ピアノ三重奏曲第2番“悲しみの三重奏曲”』を作曲したことを筆頭に、ショスタコーヴィチ(1906~75)や、シュニトケ(1934~98)も伝統を継承する作品を手がけています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。