クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第206回 グラナドス『ゴイェスカス』
イラスト/なめきみほ
戦禍によってこの世を去った作曲家の代表作
今日3月24日は、“スペイン国民楽派の旗手”とたたえられた作曲家でピアニスト、グラナドス(1867~1916)の命日です。
スペインのカタルーニャに生まれ、バルセロナ音楽院およびパリ音楽院で学んだ彼の音楽にはスペイン色が満載。代表作として知られる『スペイン舞曲集』や、ゴヤの絵にヒントを得て作曲された組曲『ゴイェスカス』からは、スペイン独自の音楽を生み出そうとしたグラナドスの熱い思いが伝わってくるようです。
当初、ピアノ組曲として作曲された『ゴイェスカス』は、1915年にオペラ化され、1916年1月28日、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(MET)において初演が行われます。
初演に立ち会うために夫婦で渡米したグラナドスは、その後ウィルソン米大統領の求めに応じ、帰国を延長してホワイトハウスで演奏。悲劇が起きたのはその直後でした。グラナドス夫妻を乗せてスペインへと向かうサセックス号が、ロンドン経由で英仏海峡を渡航中、ドイツの潜水艦の魚雷攻撃によって撃沈されてしまったのです。享年48歳。まさに戦争がもたらした悲劇です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。