5月27日まで国立新美術館で開催されている「マティス 自由なフォルム」展。マティスが後半生に取り組んだ「切り紙絵」の作品を中心に、これまでとは異なる視点で紹介される、とてもユニークで貴重な展覧会です。大きなサイズの作品や大掛かりな展示も圧巻。作品の見どころを、美術展プロデューサーの今津京子さんが解説します。
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第3回 《ダンス、灰色と青色と薔薇色のための習作》「マティス 自由なフォルム」
文/今津京子(美術展プロデューサー)
1930年9月、マティスはアメリカの富豪で大コレクター、アルバート・C・バーンズ博士の自宅サロンの壁画の注文を受けます。庭に面したドアの上約6メートルの高さに、幅約14メートルの3つのアーチが連なる場所でした。マティスが選んだテーマは「ダンス」です。
《ダンス》の習作を制作中のアンリ・マティス、デジレ=ニール通りのアトリエ、ニース、1931年 写真提供:アンリ・マティス資料館 Courtesy of Archives Henri Matisse
小さな習作デッサンを拡大するのでは描かれた人物像のリズムが生まれないと、大きな画面に、切り抜いた紙のエレメントを自由自在に動かしながら、納得のいく画面構成を考えました。制作過程ではあるものの、初めて切り紙絵を使う機会になりました。
アンリ・マティス《ダンス、灰色と青色と薔薇色のための習作》1935-1936年 エッチング/紙 29.7×80.3cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo: François Fernandez
このバーンズの壁画制作には有名なエピソードがあります。最初に制作した作品が柱の寸法を間違えていたのです。途中で気がついたマティスは、構成のバランスが崩れてしまうからと、塗り直すのではなく最初から作り直します。作品は3年をかけて完成しました。
《ダンス》を制作中のアンリ・マティス、デジレ=ニール通りのアトリエ、ニース、1931年4月末 写真提供:アンリ・マティス資料館 Courtesy of Archives Henri Matisse
現在、最終的な作品はフィラデルフィアのバーンズ財団に、そしてサイズを間違えたバージョンは後日完成させたものがパリ市立近代美術館に展示されています。「マティス 自由なフォルム」展では、考案段階のデッサン8枚とともに、完成までの変遷をほぼ実物大に近い映像で紹介しています。
マティス 自由なフォルム国立新美術館 企画展示室 2E(東京都港区六本木7-22-2)
会期:2024年2月14日(水)~5月27日(月)
開館時間:10時~18時 ※毎週金・土曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週火曜日 ※4月30日は開館
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
観覧料:一般2200円ほか
展覧会ホームページ:
https://matisse2024.jp 今津京子/Kyoko Imazu 撮影/小野裕次
美術展プロデューサー。パリをベースに、今回の「マティス 自由なフォルム」、「ルーヴル美術館展 愛を描く」(2023年)、「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de Mode」(2022年)、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(2020年)など、40年にわたり数十を超える大型展覧会の企画に携わる。日仏英の3か国語を操り、美術、ファッションなどの分野でジャーナリストとしても活動。音楽、演劇、料理、アンティークなどアール・ド・ヴィーヴルをこよなく愛する。
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