クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第214回 ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第3番』
イラスト/なめきみほ
音の出ない鍵盤を船に持ち込んだラフマニノフの成果
今日4月1日は、ロシア出身の作曲家でピアニスト、ラフマニノフ(1873~1943)の誕生日です。
『ピアノ協奏曲第2番』の成功によってグリンカ賞を受賞。作曲家としての名声を確立したラフマニノフは、1909年に予定されていたアメリカ演奏旅行で自らがピアノで演奏するための『ピアノ協奏曲第3番』の作曲を始めます。
しかし、ピアニスト・指揮者としての仕事に追われ、作品が完成したのは、なんとロシアからアメリカに向かう船が出発する直前。ロシア国内で練習することができなかったラフマニノフは、船の中に音の出ない鍵盤を持ち込んで練習を行い、ニューヨーク・カーネギーホールでの初演(1909年11月28日)を見事成功させたというのですから驚異的です。
この曲の魅力を世に知らしめたのが、1997年の映画『シャイン』でした。主人公ヘルフゴットが演奏する同曲は、アカデミー賞を受賞した映画の評判と相まって、コンサートでも頻繁に演奏される人気曲となったのです。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。