故人を偲んでくださったかたがたへのお香典返しは、選び方やマナーにも心を配りたいもの。“どうやって心を伝えるか ”を、「八代目儀兵衛」当主の橋本儀兵衛さんと、葬儀接遇アドバイザーの木野島光美さんにうかがいました。
木野島さん(以下、木野島) 私どもの会社では、さまざま な葬儀のサポートをさせていただいているのですが、 コロナ禍によってご葬儀の形も大きく変化しました。広く会葬者を招く従来の一般葬ではない、家族や近親者のみで執り行う家族葬や直葬・一日葬が定着したことで、故人にひと目会いたいというかたがたが参列できなくなってしまっているのが現状です。後から訃報を聞いて、お香典を書留で送るということがとても多くなりました。喪主としては、供花や弔電、お香典を頂戴したものの参列していただくことができない。けれどもきちんとお礼を伝えたいという中で、お香典返しとして心の込もったよい品を贈りたいと思われるかたが確実に増えていると思います。
橋本さん(以下、橋本) 以前より「八代目儀兵衛」では 慶事用をメインにさまざまなギフト提案をしてきたのですが、実はコロナ禍となってからの近年、弔事でもこのお米ギフトを使いたいというお客さまからのニーズがとても高まりました。お声を伺ってみると、故人さまがおいしいもの好きだったとか、お米が好きだったとか、そういった故人を偲ぶ想いをお米ギフトにのせて返礼にしたいということで選んでくださるかたも多いようです。お米は後に残らない“消えもの“で、 宗教や世代を問わず、どなたに贈っても喜ばれる返礼品として注目されはじめていると感じています。
木野島 これまでの一般葬、いわゆる義理で参列するかたも多かった時代は、おもてなしやお料理など、喪主さまの目線は大勢の一般会葬者に向いていたんです。多くが家族葬になった今、それは故人へとシフトしました。ですからお香典返しや引き出物も、故人が好きだったもの、故人だったらこの人にこういうものを贈るだろうなという品へと、選ぶ価値観自体が変わってきたんでしょうね。
木野島 もう一つの大きな変化として、インターネットを活用するかたが増えたことが挙げられます。今は葬儀社もネットでアクセスされるかたがものすごく多いです。特に新しい世代の喪主のかたは、ほとんどが活用なさっています。場合によってはお坊さまもネットで依頼するかたも。そして、ご供養の仕方から、棺の色やお花のことまで、しっかり主張して自ら選ばれるかたが増えてきましたね。お香典返しもしかりです。
橋本 今までは葬儀屋さんが扱っている返礼品の中から選ぶか、百貨店で商品を探されるというのが主だったと思います。しかしコロナ禍になってからは、弊社の商品をネット検索で見つけてくださるかたが格段に増えました。まだまだ弔事ギフトとしてお米を贈るのは珍しい部類に入ると思いますから、見た目を含めてサプライズ感と新味があるというのも、既存のものとは違う魅力として感じてくださっているのかもしれません。私たちはネット販売という利便性を生かしながら、電話をはじめとする多様な形での注文や問い合わせも承っていますし、サンプルを見ながら専門スタッフに相談できるギフトサロンも開設しているんです。それぞれのお客さまに応じて安心してお求めいただけるよう、サポートやサービスも充実させています。
木野島 品選びに関しては、一般的には不祝儀を後に残さないという考え方から、使ってなくなる日用消耗品や食品といった、“消えもの“が好まれます。食品の場合は、ある程度日持ちするものがよいでしょう。お米は実はお香典のルーツ。かつては相互扶助的な意味合いもあって、喪家へお米をお持ちしていたんですね。それがいつの間にかお香に代わってお香典といわれるようになり、さらにダイレクトにお金をお包みするようになりました。古来日本人が心を託してきたお米は、返礼品としても故人さまへお供えするのにもふさわしい品だといえます。
橋本 日本人にとってお米は常に生活の身近にあって、主食として人々の命をつなぎ、本来はお金の代わりだった高貴なもの。神様へのお供えものとされる神聖な存在でもあります。故人を偲びつつ感謝の気持ちをお米に託すことを、日本人のよい習慣として定着させていきたいというのが僕自身の願いでもあります。
橋本 目安となる金額は基本的には半返しです。弔事用の偲シリーズは1000円台から5万円の商品まで、幅広いラインナップをご用意してるのですが、それは やはり、お香典はもちろん供花やお供えの品、弔電といったさまざまな心遣いに対して、皆さまがきちんとした形でお返しできるようにという配慮から。さらに、誰からどういったものをいただいたかをしっかりと把握するのも大事なことですから、芳名帳をもとに氏名や故人との関係、香典金額、供花などの情報をまとめてデータにする芳名帳整理サービスも始めました。
貴船 〈きぶね〉
「丸久小山園製」の2種類のお茶、炊き込みご飯のもと、佃煮など、ご飯のおいしさを引き立てる13種類のお供とお米のセット。
撮影/本誌・坂本正行 スタイリング/梶井明美 着付け/鈴木雅子 取材・文/鈴木博美