クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第220回 ベートーヴェン『交響曲第3番“英雄”』
イラスト/なめきみほ
ベートーヴェン自身が最も愛した交響曲
今日4月7日は、ベートーヴェン(1770~1827)の『交響曲第3番“英雄”』の初演日です。
弟子のシンドラーが著した『ベートーヴェン伝』によれば、フランス革命の英雄ナポレオン(1769~1821)に共感を覚えていたベートーヴェンは、ナポレオンをたたえる曲として新しい交響曲を書き上げます。
ところがナポレオンが「皇帝」に即位したとの知らせを聞くと、「奴も単なる俗物に過ぎなかった。これから、人々の人権を踏みにじって、自分の野心のためだけに奔走し、誰よりも自分が優れていると誇示する暴君になるに違いない」と激怒。楽譜の表紙に書かれたナポレオンへの献辞を破り捨て、新たに「ある英雄の思い出のために」と書き込んだと伝えられます。
この作品が、これまでの交響曲の概念を変える規模と充実した内容を誇る、『交響曲第3番“英雄”』でした。公開初演は1805年4月7日、アン・デア・ウィーン劇場において、ベートーヴェン自身の指揮によって行われています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。