クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第226回 ヘンデル オラトリオ『メサイア』
イラスト/なめきみほ
ヘンデルの窮地を救った超大作オラトリオ
今日4月13日は、ヘンデル(1685~1759)のオラトリオ『メサイア』の初演日です。
国際的作曲家の先駆けとして活躍し、後年は英国に帰化してオペラの作曲に専念したヘンデル。しかし、反対派の妨害によってオペラプロジェクトは失敗。経済的にも精神的にもどん底に落ちこんだヘンデルが、新たに目を向けたのが「オラトリオ」でした。
失意のどん底にあったヘンデルに救いの手を差し伸べたのが、アイルランドのデヴォンシャー公とダブリンの慈善音楽団体でした。彼らのためにヘンデルが用意した新作こそが、イエス・キリストの生涯を描いた大作『メサイア』だったのです。これをなんと3週間で書き上げたというのにはびっくりです。
作曲の間はすべてを忘れて没頭し、感動のあまり涙を流しながら書き進めたとされる新作は、1742年4月13日にダブリンで初演され、大成功を収めます。1743年3月のロンドン初演では、感動した国王ジョージ2世が「ハレルヤ・コーラス」の部分で立ちあがり、聴衆もそれにならったという逸話から、後年「ハレルヤ・コーラス」で聴衆全員が立ち上がる慣習が生まれたと伝えられます。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。