〔特集〕思い出の風景「小学校の桜」 3月の卒業式から4月の入学式にかけて、満開を迎える校庭の桜。わがふるさとや、昔の思い出を呼び起こす、懐かしく愛おしく、そして希望に満ちた風景へとご案内します。
前回の記事はこちら>>・
特集「小学校の桜」の記事一覧はこちら>>>
誰もが通る6年間の小学校生活。人生で最も感受性が豊かで、大きく成長するこの頃に校庭で見上げた桜の花には、皆、特別な思いがあることでしょう。わが子や孫の成長を喜んだ日の記憶も甦るかもしれません。
人の手で植えられ、守られ、そして子どもたちの成長を見守った令和5年の桜の物語をお届けします。
福井市春山小学校【福井県・福井市】
樹勢が回復し、枝にぎっしりと咲いた生命力溢れる桜。
桜が教えてくれる“本当の学び”
ソメイヨシノは手入れをしなければ60~80年で衰退することが多く、戦後、全国の学校に植栽された木は、このままでは朽ち始めるといわれています。
春山小学校の桜も樹勢の衰えが見られたので、平成23年に樹勢回復作業を実施し、それをきっかけに児童自らが桜について学ぶ「桜プロジェクト」をスタートさせました。
講師は「日本花の会」樹木医の寺井海樹人さん。32本の桜は5年生全員に担当を振り分け、桜守として1年間面倒を見ます。
対面授業の様子。「フィールドでの観察や体験を大切にしています。どこの小学校にでもある桜を題材にして、情報が溢れる時代にこそ、五感を研ぎ澄まして自分で確かめることの必要性や面白さを伝えたい」と寺井さん。撮影/シンヤ シゲカズ
「桜プロジェクト」は、実際に桜に触れるフィールドワークが中心。観察をしながら「桜の木はどこまで伸びるのか」、「土はなぜ必要なのか」といった素朴な疑問に対し、深く考えることを大事にしています。
例えば、校庭の硬い土と豊かな森の柔らかい土では性質が大きく異なりますが、それが桜の木に与える影響について考える人は、大人でも少ないでしょう。さらに「月にも土はあるのか」と問いかけるなど、授業は児童自らが考えるきっかけを探せるように構成されています。
授業の前半は座学。撮影/シンヤ シゲカズ
幹の太さを測るなど統計をとって半年間の変化を数字で記録する。撮影/シンヤ シゲカズ
春に開花したら花数調査。初夏には、新芽や枝の伸びを調べてスケッチする。撮影/シンヤ シゲカズ
桜に触れることは、理科的な発想を養うだけではありません。
「植物の生き方は、人間と同じで個性があります。桜は開けた土地を好む成長の早い逞しい開拓者ですが、十分な日照がなければ育ちません。一方、しいの木は成長は遅いですが、耐陰性があり、開拓者の木陰を耐え忍び、最後は大木になります。そんな植物の生き様を私たち人間と重ね合わせながら見ていくことも面白いということを伝えたい」と寺井さんは話します。
木の健康診断や害虫防除、ひこばえなど余分な枝の除去も行う。撮影/シンヤ シゲカズ
開花時ばかり注目してしまう桜ですが、四季を通して桜と接することで愛着が湧き、さまざまな気づきを得た子どもたち。この学びは、きっと今後の生きる糧となるでしょう。
幹の保護や、地元で生産した堆肥を施すなどの保護活動も行う。
調べたことをまとめた桜新聞。校内にも掲示されている。
(次回へ続く。
この特集の一覧>>)