60代後半から増加する「加齢性難聴」
補聴器で聴力の回復だけでなく認知症の発症リスクも抑える
加齢性難聴とは俗にいう「老人性難聴」のことです。加齢以外に特別な原因が見当たらず、中年期以降に数年単位で高い音からゆっくり聴力が低下していきます。そして、年をとればとるほど難聴の進行は加速します(下の図参照)。
年齢別の平均的な聴力レベル
国立長寿医療研究センターHP「健康長寿ナビ/補聴器は何歳から必要?」を参考に作成
「男性も女性も60歳代後半から罹患者が増えますが、女性ホルモンに庇護されている女性のほうが加齢性難聴になるのは遅いです。
また、個人差も大きく、80歳や90歳でも補聴器を使わなくてよい人が20~30パーセントいます」と山岨先生は解説します(下の図参照)。
国立長寿医療研究センターHP「健康長寿ナビ/補聴器は何歳から必要?」を参考に作成
難聴の重症度
日本聴覚医学会 難聴対策委員会報告(2014年)より抜粋・改変
騒音曝露と動脈硬化が加齢性難聴に悪影響を及ぼす
加齢性難聴の個人差には遺伝的素因に加え、環境要因も大きくかかわっています。最も悪影響を与えるのが騒音曝露です。常に大音量の音に晒される生活をしていたり職業に就いていたりした人はそうでない人に比べて加齢性難聴になりやすいことがわかっています。
「音が入ってくると、耳の中の有毛細胞(聞こえの細胞)は音を処理するために血液をエネルギーにして懸命に働きます。しかし大きな音に曝露されると血液中の酸素が足りなくなって処理しきれず、有毛細胞が活動を終えてから耳の中に活性酸素が発生し、有毛細胞にダメージを与えます。
このようなことが繰り返されると、有毛細胞が少しずつ死んでいき、あるとき加速度的に聴力が低下するのです。従って加齢性難聴を予防するには若い頃からできるだけ騒音に曝露されないことが重要です」
騒音曝露に次いで悪影響を与える環境要因が動脈硬化です。「有毛細胞が正常に活動するには十分な血流が保たれることが必要です。それを阻む動脈硬化は耳の血管にとっても大敵です」と山岨先生は指摘します。
健康的な食事や継続した運動が加齢性難聴の発症や進行抑制に効果があったという研究報告が動物実験レベルのものを含めていくつかあるといい、「耳の血管のためにも普段から動脈硬化を予防する食事や運動、禁煙などに取り組むことが大切です」と山岨先生はアドバイスします。
日本補聴器工業会「聞こえのチェックシート」(改変版)を参考に作成