〔特集〕世界一のパティシエ ピエール・エルメ実りの国・福井へ 前編 芸術的なスイーツで世界中を魅了し続けるピエール・エルメさん。初めて日本を訪れて35年、東京にブティックを開いて25年という節目を迎えた2023年の秋、久しぶりに来日したエルメさんは、美しい山々、清らかな水に恵まれた「越山若水」の地、福井へと向かいました。時はまさに田畑が黄金色に輝く実りの季節。初来日以来、ずっと親しんできた日本人の食の根源であるお米と、この地ならではの風土が織り成す発酵文化を巡る旅は彼の「終わりなき探究心」を大いにくすぐるひとときとなりました。
越前塗の故郷にある小学校を訪問
地元の漆器で新米の給食を
教室で学校給食を初賞味。黒板の歓迎のメッセージ「Bonjour」に「u」が抜けていたので、エルメさんが微笑みながら書き足した。
Pierre Hermé(ピエール・エルメ)フランス・アルザスのパティシエの家系の5代目として生まれ、14歳のときガストン・ルノートルのもとで修業を始めた。常に創造性溢れる菓子作りに挑戦し続け、独自のオート・パティスリー(高級菓子)のノウハウの伝授にも意欲を燃やしている。2007年、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章。2016年、「世界のベストレストラン50 アカデミー」より「世界の最優秀パティシエ賞」を受賞。2022年秋には、日本においてパティスリー業界の発展に寄与した功績から政府より旭日小綬章が授与された。
福井県は九頭竜川、日野川など清流の周辺に平野が広がり、米栽培に適した土壌に恵まれた地。古くから日本有数の上質な米の産地として知られています。
鯖江市河和田地区を訪ねたピエール・エルメさん。つやつやの新米のおにぎりを手に、思わず笑みがこぼれる。
「日本のお米のテクスチャーが好きです。べたべたしすぎず粒が立ち、甘みを感じるのもいい」。新米を味わい、こう語るエルメさん。
80回を超える来日を通じて、和食や郷土料理に親しむ中で、日本のお米は大好きな食材だといいます。
エルメさんが今回訪ねた鯖江市河和田地区は、1500年の歴史を誇る越前漆器の産地としても名高い場所。地域の小学校の給食には地場産業である漆器を取り入れています。
地元のお米を地元名産の器でいただく様子を、鯖江市立河和田小学校で特別に見せていただきました。お昼時、授業が終わるチャイムが鳴り響くと一斉に給食の準備が始まります。
この日の献立は豚肉の韓国風炒め、ワンタンスープ、炊きたてご飯など。
「日本の学校給食はフランスとは異なるシステム。仲間と楽しく同じものを食べるだけでなく、お互いの配膳をするのもいいことですね」。初めて目にする光景にエルメさんは目を細めます。
軽くて手のひらに心地よくなじむ漆器は、日常で使ってこそ。ご飯を盛った越前漆器を手に取ると、その魅力がじかに伝わってきます。
地元の食材、食文化を体験するという学習活動の一環として、新米の季節には「いちほまれ」など、福井の銘柄米も献立に登場するそうです。
残った給食はじゃんけんの勝者に。終始和やかなランチタイム。
ご自身のキャリアにおいて、今後は次世代の育成にいっそう注力していきたいというエルメさん。
茶目っ気たっぷりに、黒板にマカロンをデッサン。
児童と交流し、自らの仕事についてこう語りました。「パティシエは人々に幸せを運ぶ仕事です。もし将来の夢に迷っていたら、ぜひパティシエを目指してください」。
6年生児童の有志と記念撮影。「エルメさんが子どもの頃になりたいと思った職業は?」の質問には「建築士」と答えた。全校児童にご自身のスペシャリテであるマカロンをプレゼント。
越前漆器の歴史や技法を伝える「うるしの里会館」は河和田小学校のすぐ近く。館内の喫茶「椀椀」では、地域の旧家で使われていたお膳に郷土の料理を彩りよく盛りつけて提供。写真提供/越前漆器協同組合
うるしの里会館福井県鯖江市西袋町40-1-2
TEL:0778(65)2727
開館時間:9時~17時
休館日:第4火曜(祝日の場合は翌日休)
喫茶「椀椀」TEL:0778(65)3456
営業時間:9時30分~16時30分
「うるしの里御膳」3500円〜は7日前までに要予約。人数は要相談。
(後編へ続く。)