「ソフトドリンクと食事の関連」研究で明らかに。本当の怖さは肥満より食習慣の基本を奪うこと
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(ともに女子栄養大学出版部刊)。
ソフトドリンクを飲むと一汁三菜の食事をとりにくい
コーラや無果汁の甘い飲み物──ソフトドリンクを冷蔵庫に常備している家庭は少なくありません。自分は飲まなくてもお子さんやお孫さんに気軽に与えている人も多いでしょう。糖分の多いソフトドリンクを飲むと太りやすいことはよく知られていて、米国の女性看護師を対象とした研究でも証明されています。
この研究に参加した約11万人の中からソフトドリンクの摂取頻度が大きく変わった1640人を対象に体重の変化を確認したところ、摂取量が週に1回以下から日に1回以上に増えた人たちは8年間で10キロ近くも体重が増えていました。
一方、日に1回以上から週に1日以下に減った人たちの体重増加は2キロ程度に止まっていました。子どもを対象とした複数の研究においても両者の関連性を示す結果が出ており、「ソフトドリンクを毎日飲み続けると肥満になりやすいといってよいでしょう。しかもこれらの研究では、日に1回以上摂取しているかそうでないかが肥満の分かれ目になっています」と佐々木 敏先生は指摘します。
では、太らないくらいの量であればソフトドリンクを飲んでも問題ないのでしょうか。この問いに対して佐々木先生は「実はソフトドリンクの摂取には肥満よりも怖いことが潜んでいます」と警告します。その問題を明らかにしたのが下図の研究です。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
ソフトドリンクをよく飲む人ほど油脂類と菓子をよく食べる!ソフトドリンクの摂取と食事内容との関連
【※】「ごくまれ」群における平均摂取量に比べたそれぞれの群における相対的な平均摂取量。
「ごくまれ」群の平均摂取量を100%としたときの各食品群・栄養素の増減率を折れ線で示している。
参考文献/『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』佐々木 敏著(女子栄養大学出版部刊)P.156~164、図はP.162を参考に作成
これは日本の女子大学生3931人を対象に1か月に食べたものから食品群や栄養素の摂取量を調べ、その中で摂取していたソフトドリンクとの関連を調査したものです。その結果、ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど油脂類と菓子の摂取量が多く、健康を維持するためにとりたい魚介類、果物、牛乳・乳製品、野菜、大豆製品の摂取量が少ないことがわかりました。それは栄養素摂取量にも如実に反映されています。
「ソフトドリンクを飲んでいると主菜や副菜が揃った食事がとりにくいことを想像させる研究結果です。こうした食生活を長く続けることで、肥満だけでなく、生活習慣病やがん、骨粗しょう症にもかかりやすい体になってしまいます。ソフトドリンクの本当の怖さは“きちんとした食事をとる”という食習慣の基本を奪ってしまうことなのです。この事実をしっかり認識したうえで、子どもたちにソフトドリンクを与えるかどうかをよく考えたいものです」
●研究の結果と食事の注意点
研究の結果・ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど油脂類、菓子の摂取量が多く、魚介類、果物、牛乳・乳製品、野菜、大豆製品の摂取量が少ない。
・上記に伴い、たんぱく質、カリウム、カルシウム、食物繊維の摂取量も少ない。
食事の注意点・カロリーオフのソフトドリンクでも食事に与える影響は同じなので気をつける。
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