クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第230回 ベートーヴェン『ピアノソナタ第1番』
イラスト/なめきみほ
“音楽の新約聖書”を世界初録音したシュナーベルの背景とは
今日4月17日は、オーストリア出身のピアニスト、アルトゥール・シュナーベル(1882~1951)の誕生日です。
幼い頃から天才少年として知られ、かのブラームス(1833~97)から「末恐ろしい天才」とたたえられたシュナーベルの輝かしい経歴の中でも、後世に影響を及ぼした最も大きな業績が、ベートーヴェンのピアノソナタ研究とその演奏および、世界初の全曲録音でしょう。
全曲録音については、全世界から予約を募って規定の数に達したところで実現するという、今でいうところのクラウドファンディングのような手法によって実現したことはまさに僥倖。日本から、約2000組の予約注文があったというのにもびっくりです。
この成功をきっかけに、クライスラーによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全曲録音や、カザルスによるJ・S・バッハ:無伴奏チェロ組曲全集などの録音が実現したのですから偉業以外の何物でもありません。というわけで、今回は最初の一歩であるベートーヴェンの『ピアノソナタ第1番』を楽しみましょう。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。