クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第232回 ワーグナー 楽劇『トリスタンとイゾルデ』
イラスト/なめきみほ
ワーグナーが描き出した“究極の愛”とは
今日4月19日は、指揮者ヨーゼフ・カイルベルト(1908~68)の誕生日です。
ドイツの音楽一家に生まれたカイルベルトは、1935年に27歳の若さで故郷カールスルーエ国立劇場(現バーデン州立劇場)の音楽監督に就任。その後もドイツ各地の名門オーケストラや歌劇場の指揮者を歴任し、将来を嘱望される存在でした。日本との関係も深く、1965年、1966年と1968年に来日してNHK交響楽団を指揮したことも、往年のファンには忘れがたい思い出です。
そのカイルベルトは、日本から帰国した直後の1968年7月に、音楽監督を務めていたドイツの名門バイエルン国立歌劇場での公演中に心臓発作を起こして急死します。その時に指揮していた作品が、ワーグナー(1813~83)の楽劇『トリスタンとイゾルデ』でした。
過去にはオーストリアの指揮者フェリックス・モットル(1856~1911)も、同曲の演奏中に心臓発作を起こして亡くなっています。ワーグナーが『トリスタンとイゾルデ』の中に込めた“究極の愛”には、人を昇天させるほどの魔性が秘められているのかもしれませんね。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。