クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第240回 ベートーヴェン『エリーゼのために』
イラスト/なめきみほ
有名な『エリーゼのために』は、『テレーゼのために』!?
今日4月27日は、ベートーヴェン(1770~1827)が『エリーゼのために』を作曲した日です。
なぜ作曲した日がわかるのかといえば、現在は失われてしまったベートーヴェンの直筆譜に「エリーゼのために、4月27日、ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの思い出として」という献辞が書かれていたという伝承が元になっているようです。
しかし、ここには衝撃的(笑撃的!?)な謎が含まれていたのです。なんとエリーゼというのは、ベートーヴェンの悪筆を読み間違えた後世の研究者のミスで、その後の研究によって、実際にはテレーゼであったことが判明したというのです。とはいえ、すでに超有名曲となっていたために今さら変更することもままならず、『エリーゼのために』のまま今に至るというわけです。
これには草葉の陰のベートーヴェンも苦笑いかもしれませんね。その昔、自分で書いた手帳の文字を判読できずに困った経験のある“悪筆”の筆者としては、何やら妙に親近感を覚える出来事です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。