新世代の鍼灸師に訊く 第5回(1) 鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
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更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「運動器の痛み」
仲野有草先生(Back to Basics 鍼灸整体治療院)
Back to Basics 鍼灸整体治療院 仲野有草(なかの・ゆうそう)先生
1978年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業後、仲野弥和氏(医学博士)のもとで研修しながらユマニテク医療大学校で鍼灸師の資格を取得。仲野整體整骨本院で副院長を務め、のべ8万人以上の治療に携わる。2014年に最新のスポーツ医学を究めるために渡米。16年にBack to Basics 鍼灸整体治療院を開業。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村クリニック鍼灸師として活躍。
痛みを取るだけでなく身体の使い方を教え、回復しやすい生活習慣もアドバイスする
Back to Basics 鍼灸整体治療院院長の仲野有草先生は、三重県四日市市で1926年から続く仲野整體整骨本院の4代目として育ちました。父・仲野弥和(ひろかず)さんはカイロプラクティックを学ぶために70年代に米国に留学。鍼灸師に加え、米国政府認定カイロプラクティックドクターとして活躍し、仲野先生の3人の兄弟も鍼灸や整体の著名な治療家です。
このような環境の中、研鑽を積んできた仲野先生が得意とするのは腰痛や股関節痛をはじめとする運動器のトラブルです。米国のオリンピックドクターのもとでインターンシップを経験し、現地の大学でも学んだ最新のスポーツ医学に基づき、身体の正しい使い方を熟知しているのも仲野先生の大きな強みです。
身体の使い方に着目して痛みが出にくい動き方を指導
「中高年女性に多い運動器のトラブルでは股関節痛や膝痛が目立ちます。女性ホルモン(エストロゲン)の減少により関節や軟骨が保護されなくなり、問題を抱える人が増えてきます。一方で身体は連動して動くため、痛みの原因はその部位以外のことが多いです。例えば股関節の動きが悪かったり体幹が安定していなかったりすると膝に痛みが出ます。痛みとは身体の使い方を間違えることで起こる生体防御反応であり、“その動きはやめて”という身体からのサインなのです」
痛みの原因を特定するために問診で症状や生活習慣を確認した後、姿勢チェック(上)や関節可動域(下)などの各種検査を行い、身体の動きや使い方を分析する。
ゆえに仲野先生は痛みよりも、その人の身体の使い方にまず着目します。問診や検査で癖を含め、どのような動きや使い方をしているのかを分析したうえで治療を行っていきます。「股関節に痛みがある人で意外に多いのが前屈をやりすぎているケースです。前に曲げると股関節への圧が上がり、痛みが出やすくなります。そこで、体を後ろに反らす運動療法を行い、股関節を安定した位置に戻すことで、痛みが出ないようにします。身体の使い方で大事なのは柔軟性ではなくバランスなのです」。
大きな関節だけでなく、手指などの小さな関節の痛みにも対応する。スポーツ医学先進国の米国でゴールドスタンダードといわれる筋膜リリース法も積極的に取り入れる。
痛みがあると体を思うように動かせないため、運動療法のほかにも鍼灸や筋膜リリースなどの手技療法を用いて痛みを取り除きます。また、原因を探るうえでレントゲンやMRIなどの画像検査や手術が必要なケースであると判断した場合には医療機関への受診をすすめます。「スポーツ医学の観点から適切なタイミングで適切な治療をすることが重要であると考えています」。
“正しい立位”で腎経を刺激し運動器のダメージを予防する
こうして痛みを和らげたうえでリハビリテーションを行い、患者さんに身体の正しい使い方を習得してもらいます。その際、仲野先生が基本としているのが“正しい立位”の指導です。東洋医学では五臓(肝・心・脾・肺・腎)のうち、老化にかかわる腎が弱くなると運動器の痛みを起こしやすくなると考えられており、治療では腎経(エネルギーが流れる通路の一本)のツボを刺激するのが効果的だといわれます。
「このときに役立つのが正しい立位の姿勢です。腎経のツボは足裏の湧泉(ゆうせん)から始まり、太渓(たいけい)、照海(しょうかい)、築賓(ちくひん)、陰谷(いんこく)など脚の内側を通り、腹部に上がっていくため、腎経のツボを刺激するには足で地面を踏みしめることが大事になります。正しい立位の姿勢になると、それができるので、自然に下腹(丹田〈たんでん〉)に力が入り、体幹が鍛えられて機能運動性(柔軟性、安定性、バランスの総合力で体を動かしたいように動かせる能力)が高まり、運動器のダメージを予防できるわけです」
早期回復を目指し、鍼灸術のほかスポーツ医学で効果が認められた手技を併用する。鍼が苦手な人には刺さない鍼の一種である「ローラー鍼」(下)で施術。
また、仲野先生はダメージを受けても回復しやすい体をつくるために欠かせない生活習慣の指導にも力を入れており、食事や睡眠のアドバイスもします。「当院に曽祖父の代から伝わる“医者より養生、薬より手当て”の理念のもと、最新のスポーツ医学の知識も生かしながら、生涯現役で動ける体づくりに貢献していきたいと思っています」。
診療案内
東京都港区西麻布4-8-31 レジデンス西麻布203
TEL:03(6447)7655
完全予約制(LINE予約可。詳細は治療院HP「ご予約」のページ参照)
診療時間/9時~20時
休診日/日曜・月曜・木曜
診療費/初回診療費(初診料・検査料を含む)1万8700円(税込み)
2回目以降診療費 1万4300円(税込み)
パーソナルトレーニング/30分 7700円(税込み)
https://b2b-care.jp/※次回へ続く。
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