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昭憲皇太后と大礼服の物語 新しい歴史を拓いた皇太后と憲法発布式のドレスの謎

2024.04.19

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〔特集〕よみがえる明治のドレス 昭憲皇太后と大礼服の物語 白と赤のバラ文様の織りの周囲に、金銀のバラの刺繡が施されたトレインを持つ荘厳な趣の大礼服。お召しになったのは昭憲皇太后(明治天皇の皇后、美子=はるこ皇后)です。京都の尼門跡寺院・大聖寺に皇后宮から下賜され大切にされてきた大礼服でしたが、経年の傷みにより修復プロジェクトが始動。トップクラスの服飾研究者、技術者たちが世界から集まりました。大礼服はいつ、どこで、どのようにして作られたのか? その解明と修復作業は5年にわたって行われ、ドレスは新たな輝きを得ました。そしてそこに見えてきたのは明治期の日本の歩みそのものでした。前回の記事はこちら>>

特集「昭憲皇太后と大礼服の物語」の記事一覧はこちら>>>

和装から洋装へ ──
新しい歴史を拓いた皇太后と憲法発布式のドレスの謎

明治22年憲法発布式の絵。左の壇上に皇后のお姿。ピンク色の洋装をお召しになっていたと『ベルツの日記』にある。

当時、伊藤博文参議を中心に、新興国である日本が欧米諸国と肩を並べるには皇后の洋装が必須であるという考えがあり、ドイツに皇后の礼服を数多く注文していましたが、この大礼服については一つ興味深い話があります。

「最初に大礼服を見た際、刺繡があることが不思議でした。既に織りの文様がある。その上に刺繡をする必要がないからです。また大礼服の刺繡は天皇のご正服や軍服に見られる刺繡と同じ技法で、美意識が似ている。女性の場合、金属刺繡はもっと軽やかなのですが、これは重厚です」(モニカさん)


光沢のあるシルク裂地(きれじ)の織りによるバラの表現だけで十分に豪華なドレスであることがわかる。そこにさらに手の込んだ刺繡を施した理由は何だったのだろう。刺繡はトレインの下部に特に集中している。

元旦の新年拝賀式でお召しになる大礼服ですが、はたしてそのためだけだったのか。大礼服の推定製作年は憲法発布式と重なりますが、いつ着用されたのか、確証がありません。確実なのは皇后の洋装も憲法も日本の近代化と外交に重要な役割を担っていたという点。

世界に配布された美子皇后のご真影。お召しになっているのはバラの文様の大礼服だが現存しない。天皇の代行としての行事へのご臨席、行啓も多く、文化、女子教育、慈善活動にお力を入れられた。皇后から下賜された基金を元に創設された「昭憲皇太后基金」は世界最古の国際人道基金として広く世界に知られ、171の国と地域に配分されている。(霞会館記念学習院ミュージアム所蔵)

美子皇后の御歌。上写真の撮影時のことをお詠みになったものともいわれている。

「政府顧問として憲法発布式のプロトコールを日本に教えたオットマール・フォン・モールはその長い一日を書き残していて、晩餐会の後に天皇と皇后は外交官一人一人と挨拶され、皇后は白と金の洋服をお召しになっていたとあります。英国でもドイツでも一番大切なことは最後に行います。そしてそのときは一番豪華な礼服を着るのです」。

小さな島国が、明治天皇の御代において、長く鎖国下にあった欧米列強の国々と肩を並べる国になったことに世界は瞠目しました。憲法発布式はいわば諸外国に近代国家としての日本を印象づける大舞台。皇后はどのようなお気持ちでその舞台に臨まれたのでしょう。

華奢であられた皇后がこの日大礼服をお召しになったとしたら、背負われたのはトレインの重みではなく、現代の日本をつくった「近代化」という重みであったと思わずにはいられません。

昭憲皇太后の大礼服。残っているものは少ない。(上・共立女子大学博物館所蔵 下・文化学園服飾博物館所蔵)

華族女学校行啓
明治18(1885)年、宮内省所轄の華族女学校の開校式。女子教育の振興に生涯尽力された。このときはまだ、おきものをお召しになっていた。(跡見 泰 作 聖徳記念絵画館所蔵)

東京慈恵医院行啓
明治20(1887)年東京慈恵医院の開院式の後、患者をご慰問。病院支援事業に熱心に当たられ、前年には婦人慈善会の新総裁にご就任。(満谷国四郎 作 聖徳記念絵画館所蔵)

赤十字社総会行啓
明治35(1902)年、日本赤十字社の総会と創立25周年の記念式典にて。赤十字社の前身である博愛社の頃から支援を続けられていた。(湯浅一郎 作 聖徳記念絵画館所蔵)

観菊会
明治42(1909)年、赤坂御苑にて。右奥が明治天皇、隣が美子皇后。観桜会とともに欧米のガーデンパーティに倣った近代化の一つだった。(中沢弘光 作 聖徳記念絵画館所蔵)


受け継がれし明治のドレス

〈前期〉昭憲皇太后の大礼服
会期:2024年4月6日(土)~5月6日(月)
〈後期〉明治天皇と華族会館
会期:2024年5月25日(土)~6月30日(日)
※本特集でご紹介した大礼服は前期で展示されます。

会場:明治神宮ミュージアム 東京都渋谷区代々木神園町1-1
TEL:03(3379)5875
開館時間:10時~16時30分(入場は閉館の30分前まで)
入館料:一般1000円 高校生以下・団体900円
休館日:木曜(5月2日は開館)
公式サイト:https://www.meijijingu.or.jp

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『家庭画報』2024年05月号

家庭画報 2024年05月号

編集協力・文/三宅 暁〈編輯舎〉 協力/宮内庁 染技連文化財修理所 大聖寺門跡 中世日本研究所 明治神宮

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