今月の人 堤 真一さん
「本当は、年に2本くらい舞台をやりたい。やっぱり自分の原点ですし、これからも大事にしていきたい場ですから」
そう話すのは、日本を代表する俳優の一人、堤 真一さん。若き日に「あなたには芝居心がある」と坂東玉三郎さんに背中を押され、優れた演出家の舞台に次々と挑みながら映像作品にも活躍の場を広げてきた59歳が、舞台『カラカラ天気と五人の紳士』に出演します。演出は、映像と舞台の両分野で注目を集める気鋭の若手クリエイター・加藤拓也さんです。
気鋭の若手と挑む別役 実氏の不条理劇
「加藤さんの作品を何本か観て、まだお若いですが、すごくいろいろなことを考えている人なんだろうなと感じていました。どんな作品になっていくか楽しみですね。手強い脚本ではありますが」
というのも、『カラカラ天気と五人の紳士』は、棺桶を担いで現れた5人の紳士が、棺桶をどう役立てるか議論していると、不思議な女性の二人組がやってきて......という、日本の不条理劇の第一人者・別役 実さんの作品なのです。
「はたから見るとアホらしいような会話をとりとめなくするうちに、さらに意表を突いた展開になっていくので、お客さんはどう観るんだろう?と思っています。ただ僕は、脚本を読むうちに、人間の分別や死に対する別役さんの哲学を感じて、なるほどなとも思いました。舞台に慣れた役者が揃っているので、みんなであれこれ試しながら作っていくことになるでしょうね。一緒にワイワイできそうな顔ぶれなので、そこも楽しみです(笑)」
還暦は体と心の変わり目。変化も楽しんでいきたい
一方で、二人のお子さんと過ごす時間も大切にしている堤さん。先日は雨の予報を見てキャンプの計画を取りやめ、思い立って出雲へ家族旅行をしたそうです。
「素晴らしかったですよ、出雲大社。下の子は、どこへ行っても決まって1日目に『お家に帰りたい』といいだすんですが、出雲では一度もいいませんでした。何か居心地がよかったんでしょうね(笑)」と、優しいパパの顔を見せます。
2023年のNHKドラマ『ミワさんなりすます』での映画スター・八やつ海み崇たかし役もハマっていた堤さん。「いやいや、現場では、松本穂香さん(八海を敬愛する久保田ミワ役)に、ずっと『ごめんな、こんなおっさんで』といってたんですよ(笑)」。
子どもたちの成長を見るにつけ、「親があれこれ考えて教えなくても、一緒にいることで学んでいるんだろうな」と感じるようにもなったと話します。
「家でちっとも勉強しない子たちなので、将来どうなるんだろう?と心配になることもありますが、僕自身、上京して4畳半のアパート暮らしをしていたときも、お金はなかったけど、若かったし、楽しかった部分もあったから、それは別に苦痛ではなかった。大事なのは、そこで人のせいにしたり、世の中を恨んだりしないことじゃないですかね」