〔特集〕私の最高レストラン 人生の節目で食した忘れられないあの味、大切な人と過ごしたあの名店でのひととき。今回、さまざまな分野で活躍される方々に「あなたの“最高”のレストランは?」という質問をしました。それぞれの「食」にまつわる思い出を辿っていくうちに見えてきたのは、かけがえのない「人生の物語」でした。
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母の日に寄せて
母との思い出レストランへ
七五三、誕生日、成人式──。記念日に母が心を込めて準備してくれたお仕度の記憶とともにあるのは幸せを彩る記念日レストランの存在ではないでしょうか。“母の日”に寄せて、家庭画報本誌ゆかりの方々に「母との思い出レストラン」をご紹介いただきました。母娘の思い出の料理と温かなエピソードをお楽しみください。
千住真理子さん(ヴァイオリニスト)
「ここの『フィレステーキ』を食べると、母の笑顔を思い出します」
11年ぶりの「リブルーム」の「黒毛和牛フィレステーキ」に目を輝かせる千住さん。壁に掛かっている版画の花は、支え合って生きてきた千住さん母娘を思わせる。
千住真理子さん(せんじゅ・まりこ)12歳でプロデビュー。1979年、第26回パガニーニ国際コンクールで最年少入賞を果たす。愛器のストラディヴァリウス「デュランティ」とともに国内外で精力的に活動中。2024年7月6日に長野の軽井沢大賀ホール、14日に大阪のザ・シンフォニーホールにて公演の予定。
ホテルニューオータニ リブルーム(東京・紀尾井町)
病と闘う母と娘が毎週通ったステーキハウス
ホテル専用の畑などで収穫された栄養価の高い野菜が並ぶサラダバー。「母はいつもおかわりしていました」と千住さん。
千住真理子さんが初めて「リブルーム」を訪ねたのは、お母様の文子さんが80歳で心臓病を患ったのがきっかけでした。
「『母を元気にするには、お肉を食べさせなきゃ』と思い、自宅から近いこのお店に連れてきたんです。ここの『フィレステーキ』は柔らかくて食べやすいので母もとても気に入って。その後6年間、毎週二人で通いました」。
お母様が大好きだった「黒毛和牛フィレステーキ」は絶妙な焼き加減で供される。「黒毛和牛フィレステーキ」150グラム(焼き野菜、ベイクドポテト、ライスまたはパン、サラダバー、コーヒー付き)1万9500円
熟成中の神戸牛や宮崎牛などが、行き交う人の食欲をそそる店先。
千住さんが思い出すのは、お母様がお肉とともに赤ワインをおいしそうに味わう姿。「母はもともとお酒を飲まなかったのですが、一緒に飲むようになって。お肉とワインとサラダから元気を得ていたのだと思います」。
日本全国から厳選した和牛を、熟練のシェフが一枚一枚低温でじっくり焼き上げる。
娘とゆっくり話せる嬉しさからか、お母様はしばしばおしゃべりに夢中になって、食事をする手が止まったのだそう。「『冷めちゃうから、しゃべらないで食べて!』というと、母はゲラゲラ笑って。その笑いにつられて私もよく笑いました」。
明るく話す千住さんですが、お母様亡き後は一度も来店していなかったと明かします。「母との思い出が濃すぎて来られませんでした。でも、これからは一人で来ます」。思い出深いステーキを完食すると、千住さんはにこやかに宣言しました。
落ち着いた雰囲気の店内は、背もたれの高い椅子が異彩を放つ。
ホテルニューオータニ リブルーム住所:東京都千代田区紀尾井町4-1
TEL:03(3238)0026
営業時間:11時30分~13時30分(LO)、17時~20時(LO)
定休日:無休
母娘の“思い出アルバム”
地方コンサートからの帰途、駅のホームでのお二人。お母様は長年、千住さんの地方公演に同行し、音楽活動を支えた。
1999年頃、家族全員でお母様の誕生日を祝ったときの記念写真。右から、経営工学者で慶應義塾大学名誉教授だった父の鎮雄さん、長兄で日本画家の博さん、母の文子さん、次兄で作曲家の明さん、千住さん。
(次回に続く。
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