〔特集〕20世紀&21世紀にグルマンを魅了 世界のスーパーシェフ列伝 美食は時代を映す鏡──。フランス料理を起点に、卓越した才能で各時代を牽引したスーパーシェフたちの功績と美食界の進化を辿る旅へとご案内します。
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ジョエル・ロブション(1945~2018)
【1980年代~】
個性豊かなフランス人シェフが世界の美食界を魅了
ヌーヴェル・キュイジーヌの熱狂が落ち着いた1980〜1990年代、フランス料理界は成熟期を迎えます。素材の持ち味を尊重する調理技術がロジカルに追求されるとともに、油脂を減らし、ジュ(濃縮しただし)や野菜ピュレを活用する進化系ソースも多彩に登場。料理人は、創造性豊かな芸術家として尊敬を集めるようにもなりました。スチーム・コンベクション・オーブンなどの機器の浸透も、シェフの創作を支えました。
異なる視点を持つさまざまな才能が花開いたのもこの時代の特徴です。圧倒的に精緻な表現を、完璧な厨房組織コントロールで実現したジョエル・ロブション。独創的な料理を、現代絵画のように皿に盛りつけるピエール・ガニェール。郷土の自然に入り込み、思索を重ねるミシェル・ブラス......。黄金期が築かれたフランス料理に、世界中のシェフや美食家が憧れを寄せました。
〔1980年代日本では?〕石鍋 裕(クイーン・アリス)や井上 旭、三國清三など、フランスでヌーヴェル・キュイジーヌを学んで帰国した日本人シェフたちが街場の店で活躍。高級フランス料理ブームを起こす。
業界の芯を支え続けた究極の完璧主義者
ジョエル・ロブション
若き頃から数々の重要コンクールを制覇する「天才」として知られ、M.O.F.を弱冠31歳で受章。1981年、36歳でパリに「ジャマン」を独立開業し、わずか3年で3つ星を獲得する。料理では、盤石な伝統と圧倒的な独創性を精緻に調和させ、「完璧」と称された。「最高の状態で辞めたい」と51歳で現場を引退し、以降はプロデュース店を世界で展開。2018年に73歳で逝去するまで、生涯フランス料理の代表者であり続けた。
【主な弟子】
河野 透(恵比寿「モナリザ」)、渡辺雄一郎(浅草「ナベノ-イズム」)
〔師匠の横顔〕関谷健一朗さん
「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」総料理長何事にも妥協を許さない厳しい人でした。彼も制した世界的コンクールに挑戦したいと伝えたら、「勝てないならやるな」と。私の座右の銘となっています。彼は鋭いアンテナの持ち主で、世の人々の要望をつかむ力がずば抜けていました。彼の料理や店が何十年も古びないのはその証です。
(次回に続く。
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