サイレントキラーの病に備える 第5回(1)成人が歯を失う原因の第1位である歯周病は多くの病気と関連します。厚生労働省「歯科疾患実態調査」(2022年)によると進行した歯周病である深さ4ミリ以上の歯周ポケットを有する人は45~74歳の約半数。日本歯科大学 生命歯学部教授の沼部幸博先生(日本歯周病学会理事長)にその病態や予防について伺います。
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“気づいたときには手遅れ”にならないように「歯周病」
[お話を伺った方]
日本歯科大学 生命歯学部 歯周病学講座 主任教授
沼部幸博(ぬまべ・ゆきひろ)先生 1983年日本歯科大学歯学部卒業、87年同大学大学院修了、歯学博士号取得。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校歯学部歯周病科客員講師、日本歯科大学歯学部歯周病学教室助教授等を経て、2005年から現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本歯科保存学会専門医・指導医。23年4月から日本歯周病学会理事長。
歯の欠損によって嚙む力が落ち、誤嚥性肺炎も起きやすくなる
歯周病は歯を支える歯周組織(歯肉、歯のセメント質、セメント質と歯槽骨の間にある歯根膜、歯槽骨)が壊れる病気で、歯と歯肉の境目の部分に溜まるプラーク(歯垢)が引き起こします。
プラークは微生物の塊で歯周病菌や虫歯の原因菌が含まれています。「プラークは日々の歯のブラッシングで取れますが、それが固まった歯石は歯科で取ってもらうしかありません」と沼部先生。
プラークは歯肉と歯のすき間(歯肉溝)に入り込んで炎症を引き起こし、歯と歯肉がくっついている部分を壊します。それによってポケットが深くなっていくのです。
歯肉に炎症が起こっているものの、炎症が限局し、歯根膜や歯槽骨が壊れていないのが「歯肉炎」、炎症が深く広がり、歯根膜や歯槽骨が壊れるのが「歯周炎」です。自覚症状からみる重症度の目安は下のとおりです。
歯周病の進行と自覚症状
歯が抜けると嚙む力が落ち、栄養状態の悪化を招きます。誤嚥もしやすくなり、欠損部位によっては発音にも響きます。歯周病菌や炎症で作られた物質は唾液や血液を通じて全身に運ばれ、多くの臓器に影響します。
歯周病によって進行する主な病気・症状
●脳卒中
●認知機能の低下
●狭心症・心筋梗塞
●感染性心内膜炎
●誤嚥性肺炎
●糖尿病
●慢性腎臓病(CKD)
●非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
●早産・低出生体重児の出産
例えば血糖を下げるインスリンの効きを悪くして糖尿病を悪化させます。また、歯周病菌は動脈硬化を進めたり、歯周病菌の出す酵素がアルツハイマー型認知症に関連するたんぱく質の合成を進めたりすることもわかっています。
(次回へ続く)
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