幸せな人は立ち直りも早く、悲しくても苦しくならない
「自分にも大変なことが起きるのではないか」と強い不安を持つ人が増えています。前野先生 程度の差はあれ誰にでも生じることですが、対策の一つは、日頃から「いつ何が起こるかわからない」さらにいえば「人は必ずいつかは死ぬ」と覚悟しておくこと。もう一つは幸福度の高い自分でいること。幸福度とレジリエンスはつながっています。幸福度が高く自分の軸をしっかり持っている人は立ち直りも早いのです。
マドカさん たしかに先ほどの彼女も仕事にやりがいを感じていて人とのつながりを大切にする幸福度の高い人でした。私も、大きな困難に直面してひどく落ち込んだとしても、心のどこかで「いつか立ち直れる」と希望を持ち続けられる自分でいたい。
前野先生 レジリエンスは筋肉(マッスル)のように鍛えることができます。それには自分のポジティブな面を見て、「幸せの4つの因子」(下の図。前野先生が統計学的に導き出した、幸せな人が共通に持つ因子)を高めるよう心がけることですね。
日頃から高めておきたい幸福度 いざというときのレジリエンスを身につけるには、普段から幸せの4つの因子を育てて幸福度を高め、自らをウェルビーイング(心身ともに充実したよりよい状態)に保っておくことが大事。
なかには、被災者や被害者に同情し、自分が普段どおり暮らしていることに後ろめたさを感じる人もいるようです。マドカさん 他者の身の上を“自分ごと化”してしまう気持ちはよくわかります。「私も何かしなければ」と被災地にボランティア活動に行って心を病んでしまう方もいますね。自分には何ができるか、どこまで耐えられるか、自分を知ることが必要ではないでしょうか。私の知り合いで「うつを何度か経験したら傾向がわかってきて、2度目3度目は前より症状が軽く、回復も早かった」という人がいます。困難を繰り返すことで自分の限度や対処法がわかってくる──これも成長だと思うのです。
前野先生 幸福度の高い人は、相手に感情移入しても引きずられたり一緒に落ち込むことがありません。誤解されがちですが、これは冷淡なのでもなく距離を置くことでもない。相手の不幸は十分に悲しい。悲しいけれど、苦しいかといわれれば違う──。
マドカさん 悲しいけれど苦しくない──実体験としてこの感覚がわかったとき、一段階成長したといえるのかもしれませんね。