春の香川で、伊藤若冲の国宝作品をはじめ皇室ゆかりの美術品の数々にひたる
【国宝】伊藤若冲《動植綵絵》「芍薬群蝶図」〈右〉、「向日葵雄鶏図」〈左〉皇居三の丸尚蔵館収蔵
ナビゲーター・窪美酉嘉子(くぼみゆかこ)さん(香川県立ミュージアム主任専門学芸員)皇室に代々受け継がれた貴重な品々を収蔵し、公開してきた三の丸尚蔵館。昨年開館30周年を迎え、「皇居三の丸尚蔵館」と名称を新たにし、新館が建設されました。現在その一部が公開されるとともに、全面開館までの間、全国各地で順次展覧会を開催しています。
その13番目となるのが、香川県立ミュージアムで開催される「皇居三の丸尚蔵館名品選『美が結ぶ 皇室と香川』」。皇居三の丸尚蔵館の収蔵品42件と、金刀比羅宮、香川県立ミュージアムなどに伝わる22件が展示されます。その見どころを、主任専門学芸員の窪美酉嘉子さんに伺いました。
「一番の見どころは、伊藤若冲の作品です。皇居三の丸尚蔵館収蔵《動植綵絵(どうしょくさいえ)》と、香川県琴平町にある金刀比羅宮奥書院を飾る《百花の図》(襖絵)が、初めて同時に展示されます。《動植綵絵》の制作時期に並行して、障壁画と襖絵からなる《百花の図》は制作されました。どちらも大変緻密に描き込まれていますので、細部までじっくりご覧ください。《百花の図》は、金毘羅大権現の別当を務める金光院の住職、宥存(ゆうそん)が少年時代を京都で過ごし、絵事を好んで若冲に学んだことから依頼したと伝えられています。奥書院は通常非公開ですので、大変貴重な機会です」
伝空海、そして三跡(小野道風〔おののみちかぜ〕、藤原佐理〔ふじわらのすけまさ〕、藤原行成〔ふじわらのゆきなり〕)による書も見逃せません。
「特に藤原佐理は、皇居三の丸尚蔵館収蔵の《恩命帖(おんめいじょう)》と、佐理の現存最古とされる当館所蔵の国宝《詩懐紙(しかいし)》が、ともに展示されます。十数年を隔たる、2つの作品。その筆は折々の佐理の姿を映し出すようで、興味が尽きません」
加えて、香川県が大正天皇即位時に主基国(すきのくに)(大嘗祭〔だいじょうさい〕で神に供える米を作る西方の国)に選出された際、大嘗祭後の節会(せちえ)(大饗〔だいきょう〕の儀)で飾られた竹内栖鳳(たけうちせいほう)による《大正度主基地方風俗(たいしょうどすきちほうふぞく)歌屏風》も展示されます。
「栖鳳は、このため実際に香川の地を訪れ、各地の風景を四季とともに描きました。本作は標準的な屛風よりもはるかに大きく、伝統的なやまと絵の技法で横一文字にたなびく霞が描かれ、その向こうに主基国・讃岐の風景が広がっています」
常設展示室では『皇室と高松松平家―大正時代の行啓』を併催。重要文化財《光厳天皇宸翰奉納心経(こうごんてんのうしんぎょうほうのうしんきょう)》も特別公開されます。
「今年は日本初の国立公園に指定された瀬戸内海国立公園が指定90周年を迎え、イベントも多数予定されています。ぜひ春の香川へお越しいただき、本展をお楽しみください」
皇居三の丸尚蔵館名品選
『美が結ぶ 皇室と香川』
【香川県指定有形文化財】伊藤若冲《百花の図》 金刀比羅宮所蔵
皇居三の丸尚蔵館が収蔵する皇室ゆかりの美術品と、皇室の美術品とかかわりの深い香川の文化財を交えた64件を展示。空海筆と伝わる書跡や「三跡」の古筆、伊藤若冲の作をはじめ、中世から近代の絵画の名品、香川県出身作家の近代の工芸品などから、皇室と香川を結ぶ美の世界を展観する。
香川県立ミュージアム~2024年5月26日
休館日:月曜・5月7日(4月29日、5月6日は開館)
入館料:一般1400円ほか
TEL:087(822)0002
URL:
https://shozokan.nich.go.jp/exhibitions/2024kagawa.html