「炭水化物を脂質に食べ替える」研究でわかった〔中性脂肪を上げやすいのは、脂質よりも炭水化物〕
東京大学名誉教授
佐々木 敏(ささき・さとし)先生京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木 敏のデータ栄養学のすすめ』『行動栄養学とはなにか?』(ともに女子栄養大学出版部刊)など。
やせているのに中性脂肪の数値が高くなることも
女性ホルモンのエストロゲンが減少する50歳以降、女性はLDL(悪玉)コレステロールだけでなく、中性脂肪の数値も上がってきます。主に食事から体に取り込まれた中性脂肪は、血液によって全身に運ばれ、臓器や筋肉を動かすためのエネルギー源として使われます。
しかし、血液中の中性脂肪が増えすぎると脂質異常症の一種である「高中性脂肪血症」を引き起こし、動脈硬化の大きな要因となり、心疾患や脳卒中を発症するリスクも高まります。
中性脂肪値を上昇させる主な原因としては肥満がよく知られています。炭水化物、脂質、たんぱく質、アルコールといったエネルギー源になる栄養素を摂りすぎると肥満になり、中性脂肪値を上げるのです。一方、やせているのに中性脂肪の数値が高くなることがあります。
「実は、中性脂肪値を上げるルートには肥満を介さない経路もあるのです」と佐々木 敏先生は指摘します。
栄養素と中性脂肪の関係
栄養素と中性脂肪の関係には、肥満を介する経路と介さない経路の2通りがある。各エネルギーの過剰摂取は肥満につながり中性脂肪値を上げる。一方、肥満でなくても炭水化物やアルコールを摂りすぎると中性脂肪値の上昇を招く。
このルートの主な原因は炭水化物の過剰摂取です。
「これは、みなさんにとって意外な事実かもしれません。なぜなら中性脂肪値を上げる栄養素は脂質だと思っている人が多いからです。油を使う揚げ物や炒め物を控える人も少なくありません」。
この思い込みが間違っていることを示しているのが下の研究です。
総エネルギー摂取量は変えずにそのうちの5パーセントだけを炭水化物から脂質(飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸のいずれか)に食べ替えたときの血液中の中性脂肪の変化を調べると、どの脂肪酸でも中性脂肪の数値は下がっていました。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
参考文献/『佐々木 敏の栄養データはこう読む!』佐々木 敏著(女子栄養大学出版部刊)P. 55~63 、図はP. 59 、61を参考に作成
「この研究結果は炭水化物を増やすと、その分のエネルギーを脂質で減らしたとしても中性脂肪値は上がることを意味しています。
したがって肥満ではないのに中性脂肪値が高い場合は炭水化物の多い食べ物に偏っていないかどうか食生活を見直すことが必要です。
炭水化物の摂取量が多いようなら減らし、その分のエネルギーを脂質で補いましょう。ただし、極端な低炭水化物(低糖質)食は、ほかの栄養素の不足や過剰摂取を招くため禁物です」
また、アルコール摂取は1日に1合を超えると高中性脂肪血症になりやすいことがわかっています。
「これは確立されたエビデンスではないものの、炭水化物と同様にアルコールも摂りすぎないことが賢明です」。
●研究の結果と食事の注意点
研究の結果●炭水化物からどの脂肪酸に食べ替えても中性脂肪値は下がる。
食事の注意点●肥満ではないのに中性脂肪値が高い場合は、炭水化物を控えて脂質を増やす。アルコール摂取は、1日1合以下に減らすことが望ましい。
●極端な低炭水化物(低糖質)食は禁物。
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