クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第248回 ベートーヴェン『レオノーレ第3番』
イラスト/なめきみほ
ベートーヴェン唯一のオペラにまつわる4つの序曲
今日5月5日は、ニューヨークのシンボル「カーネギーホール」の杮落し公演が行われた日です。
鉄鋼王と呼ばれるアメリカの実業家・慈善家アンドリュー・カーネギー(1835~1919)によって建てられたこのホールは、1891年5月5日、ダムロックとチャイコフスキーが指揮するコンサートによって杮落されています。
この名ホールの誕生125周年を記念した、ホールでの名演を集めたアルバムの筆頭に収められているのが、レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルハーモニックによるベートーヴェンの序曲『レオノーレ第3番』です。
ベートーヴェンが残した唯一のオペラ『フィデリオ』は、当初の『レオノーレ』から『フィデリオ』へと名称が変わるなど、作曲は難航を極めます。悩みに悩んだベートーヴェンは、書き直しを重ねながらこのオペラのために、なんと4曲の序曲を残しています。
しかしその4曲が、それぞれコンサートで演奏される名曲となっているあたりが、“楽聖”とたたえられるゆえんでしょう。中でも最も名高い作品『レオノーレ第3番』の華やかさは、カーネギーホールの歴史を彩るのにふさわしい名曲です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。