〔特集〕心安らかに、精一杯生きるために知りたい 死んだらどうなる? 誰にとっても限りある命。人は死んだらどうなるのか? 古今東西、永遠のテーマをノンフィクション作家・工藤美代子さんが聞き手となり、日本心霊科学協会理事の小児科医・鶴田光敏さんに率直に尋ねる対談は必読。また、研究や体験を通じて死後の世界観を確立されている方々にもお話を聞き、多面的に掘り下げました。死後の世界に思いを馳せることで、“よりよい死を迎えるために、よりよく生きる”一助になりますように──。
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宗教学者・島薗 進さんに教わる世界の多様性
異文化、異宗教に見る生と死の関係
長い人類の歴史の中で、死後の世界はどのようなものであると想像されてきたのでしょうか。宗教学を研究されている島薗 進さんに、各国の宗教や文化圏における死の捉え方についてお聞きしました。
「絆の継続」という言葉を教えてくださった島薗先生。「記憶や遺物を通し、現世とのつながりは残り続けるのです」。
世界の人々が思い描く死のイメージの多様性
── キリスト教、イスラーム、仏教などにおいて、死後の世界はどのようなものであると考えられていますか。島薗さん(以下S) 宗派・地域等によって細かい部分は異なりますが、キリスト教およびイスラームでは、天国と地獄の存在が信じられてきました。「終末」と呼ばれる日になると、それまで地中で眠っていた死者が一斉に墓から甦生。神の裁きによって、安らぎに満ちた天国へ行けるのか、あらゆる苦しみが永遠に続く地獄へ落とされるのかが決まるといわれています。
さらにカトリックにおいては「煉獄」という、天国と地獄の中間のような場所があるとされ、そこでしばらく修行を積めば、罪を犯した魂も天に昇ると考えられていました。
また仏教にも、天国に近しい観念が存在します。「西方極楽浄土」といって、西の方に阿弥陀仏の安息の地があり、「往生」とは浄土宗の用語で、そこへ転生することを意味します。
── 死者の弔い方や遺体の処理の仕方にも、各宗教と文化圏ごとの思想が反映されているのでしょうか。S 例えばインドには、火葬場で遺体を焼いた後、灰を「聖なる川」であるガンジス川に流すという文化があります。また、サウジアラビアやモンゴルには遺体を埋めても墓は作らなかったり、自然の中に放置したりする文化が残っています。鳥に食べさせるような地域もありますが、これらの供養の根底には、いずれも「輪廻転生」や「自然の中に還っていく」という思想があるように思います。
生命が生まれ、死に、また生まれ……という循環の中で、自身の肉体が地球の一部となること、そして魂も新しく生まれた別の生き物に宿ることを望む宗教や文化圏では、お墓を持たず、自然に還す形で死者を弔うのも不思議ではないのです。
現世で暮らす我々と死後の世界との関係
── 死後の世界に対するイメージは、その宗教や文化圏で暮らす人々の生き方や生活習慣にどのような影響を与えていますか。S 天国や来世で幸せになるためには、生きている間に徳を積まなければならない、といった発想は、多くの宗教に共通するものです。輪廻転生の教えにおいても、何に生まれ変わるかは生きている間に背負った業(カルマ)で決まるとされています。
科学の発展とともに、神のような存在を否定的に考える人が増えてきていますが、宗教的な信仰を持ち、死後の世界を信じることは、現世をよりよく生きようとする心がけにつながるのではないでしょうか。
島薗 進(しまぞの すすむ)1948年生まれ。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所元所長。主な研究領域は近代日本宗教史、宗教理論、死生学。著書に『大学4年間の宗教学が10時間でざっと学べる』『なぜ「救い」を求めるのか』などがある。
(次回へ続く。
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