クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第252回 ブクステフーデ アリア『ラ・カプリチョーザ』による32の変奏曲
イラスト/なめきみほ
バッハに大きな刺激を与えた名曲とは
今日5月9日は、J・S・バッハ(1685~1750)以前の最大のオルガン音楽の巨匠、ブクステフーデ(1637頃~1707)の命日です。
このブクステフーデにまつわる逸話の中でも特に印象的な話が、J・S・バッハのリューベックへの旅です。
ドイツのアルンシュタットで教会オルガニストを務めていた20歳のバッハは、4週間の休暇をとってリューベックの聖マリア教会オルガニスト、ブクステフーデを訪ねます。ところが勝手に予定を延長して3か月も滞在したことで、教会からえらく叱られたのだとか。
しかし、片道約400kmもの距離を歩いて体験したブクステフーデの音楽は、その後のバッハに大きな影響を与えます。その成果の1つが、当地で体験したブクステフーデの“アリア『ラ・カプリチョーザ』による32の変奏曲”のスタイルを踏襲し、調性も同じト長調で書かれた『ゴルトベルク変奏曲』です。
バッハが参考にしたブクステフーデの変奏曲は、残念ながらコンサートで演奏される機会は殆どありませんが、バッハが受けた刺激を体験するためにもぜひ聴いてほしい名曲です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。