クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第255回 イザイ『無伴奏ヴァイオリンソナタ』
イラスト/なめきみほ
バッハの名曲に触発されたイザイの想いがここに
今日5月12日は、ベルギーのヴァイオリニストで作曲家、イザイ(1858~1931)の命日です。
先達であるヴュータンやヴィエニャフスキから「フランコ=ベルギー流派」のスタイルを受け継ぎ、現在に至るヴァイオリン奏法を磨き上げた功績は高く評価されています。その腕前は素晴らしく、当時最高の作曲家であるフランク、サン=サーンス、ショーソンなどが、イザイのために作品を書いています。
没後の1937年には、彼の名を冠した「イザイ国際コンクール」が開催され、名門「エリザベート王妃国際コンクール」の前身となったことも、教育における優れた業績ゆえの出来事です。
そのイザイの代表曲といえば『無伴奏ヴァイオリンソナタ』が圧倒的に有名です。全6曲からなるこの作品は、J・S・バッハの『無伴奏ヴァイオリンソナタ』を聴いて大きな刺激を受けたイザイが作曲を決意。一晩で全6曲のスケッチを書き上げたという逸話が残る名曲です。
楽譜出版に際し、イザイと親交のある6人の名ヴァイオリニスト(シゲティ、ティボー、エネスク、クライスラー、クリックボーム、キロガ)に作品が献呈されたことも素敵な逸話です。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。