クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第257回 メンデルスゾーン『フィンガルの洞窟』
イラスト/なめきみほ
人気スポットから霊感を受けて生み出された名曲
今日5月14日は、ドイツ・ロマン派の作曲家メンデルスゾーン(1809~47)の演奏会用序曲『フィンガルの洞窟』の初演日です。
ドイツ・ハンブルクの裕福な家庭に生まれ育った“早熟の天才”メンデルスゾーンは、1829年から1832年までの3年間、見聞を広げるためにイギリス、イタリア、スイス、フランスへの旅へと出かけます。中でも、嵐の晩に訪れた、スコットランド西部の海に浮かぶヘブリディーズ諸島の人気スポット「フィンガルの洞窟」には、ひときわ深い感銘を受けたようです。
直後に作曲を開始したメンデルスゾーンは、「僕のこの感動を理解してもらうために、頭に浮かんだ音楽を姉さんに送ります」という手紙を姉のファニーに送っています。空に広がる雲や荒々しい波など、大自然が作り出した無人島の神秘的な洞窟を描いた音楽は、メンデルスゾーンが彼の地で見た光景が目に浮かぶようなすばらしさです。
初演は1832年5月14日。ロンドンにおいて、演奏会用序曲『夏の夜の夢』などと一緒に披露されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。